坂道


 ある日の帰り道、俺は朝比奈さんの隣というとてもありがたい位置をキープして坂を下っていたが、俺の気持ちはあまり晴れやかではなかった。
 俺と朝比奈さんが後ろに居て、真ん中に長門がいるということは、当然その前に居るのはSOS団の団長殿と副団長殿の二人、つまりは暴走特急娘とその加速装置とでも言うべき最凶コンビということになる。
 少し背の高い古泉に対して身振り手振りまで交えてオーバーアクションで話すハルヒはとても楽しそうで、何時もの笑顔でそれに応える古泉も何だか楽しそうだ。
 この二人が二人揃って楽しそうなんて時に、俺にとって良い事が降りかかるわけなんて無い事くらい、俺は何ヶ月も前に学習済みだ。
「何だか楽しそうですね」
 俺の隣にいる朝比奈さんが、前にいる二人を羨ましそうに見つめている。
 そんな朝比奈さんの様子はとても微笑ましいが、危機感も警戒心も足りなさそうに見えてちょっと危なっかしい。
 朝比奈さんにこの手の事を学習して欲しいと思うのもあれだと思うので、その辺りについては直接口にした事は殆ど無いのだが、本人のためにもこれは一度きちんと言った方が良いのだろうか。
「あ、みくるちゃん、ちょっと来て」
「は〜い」
 俺が朝比奈さんに返事をするよりも早く、彼女は前を歩くハルヒに呼ばれてパタパタと小走りで坂を下りハルヒの横に並んだ。
 そして朝比奈さんとは反対に、ハルヒの横に並んでいた古泉が歩を緩めて俺の隣の位置に収まる。
 どうやら、ハルヒと古泉のお喋りは一段落したらしい。
「一体何を話していたんだ」
「他愛ない事ですよ」
「俺はお前とハルヒが他愛ないと呼んでも差し支えないような話をしているところなど全く持って想像が着かん」
「そんな風に言わないでください。私も涼宮さんも、女子高生らしい会話くらいしますよ」
 小声で愚痴めいたことを言う俺に対して、古泉は何時もの爽やか笑顔を崩さずに答える。
 はっきり言って、全然信用できない。
「嘘つけ、どうせまたハルヒと二人で良からぬことを企んでいたんだろう」
「そんな事有りませんってば」
「じゃあ、何を話していたんだ?」
「それは……」
「言えないのかよ」
「……女同士の事ですから、言いたくないことも有ります」
 古泉は顔を少しだけ赤くすると、そのままぷいとそっぽを向いてしまった。
 これは珍しい表情と仕草だ。
 怒らせてしまったのは少し悪かったかも知れないと思ったが、これはこれで悪くないかも知れない。
 案外、かわいいところも有るんだな。
「あ、一樹ちゃん、ちょっと来てーっ」
「はいっ、今行きます」
 俺達の会話になんてさっぱり気付いて無さそうなハルヒが古泉を呼び、古泉がそれに答えてハルヒの隣へとかけていく。
 朝比奈さんはその反対側の位置のまま、女の子三人になっての会話が始まる。
 一体何の話をしているのか分からないが、朝比奈さんを交えてもこんな風に楽しそうに話しているということは、古泉の主張は正しかったのかも知れないな。
 しかし、一体何の話だろうか。
 女同士の事なんて俺にはさっぱり想像も着かないし、距離が多少開いているし声がよく被るからか、何を言っているか判別する事も出来ない。
 俺は間に居る長門に通訳めいた役を頼もうかと思って話し掛けようとしたが、辞めておいた。
 こんな事を聞かれるのは長門だって嫌だろうし、聞いても答えてくれないかもしれない。
 それに、女同士のと言うのならば、俺が入る隙間は多分無いのだろう。
 興味が無いと言えば嘘になるが、無理に近づいて火傷をしたいとは思わないさ。
 何せ普段からハルヒや古泉の周りで痛い目を見まくっているからな、わざわざ自分から不名誉な傷や経歴を増やしに行くことも無いだろう。
 俺は坂を下りきるまでの間、楽しそうに話す女の子三人の様子を後ろからぼんやりと眺めていた。





 
 キョンがふと孤独を感じる機会。
 彼はそういうことを余り気にしなさそうですが(060901)