......love me?




「なあ、クリスマスってのは恋人達の日じゃなかったのか?」
 二学期も終わりかけ終業式も目前となったととある日の放課後、彼は書記である女子生徒が立ち去って行ったのを確認してからふと口を開いた。
「定義の上ではともかくとしてそう思っている人が少なくないのは確かですね」
 クリスマスは元々キリストの生まれた日で有ってそれ以上でもそれ以下でも無い、などという杓子定規な回答をする気はないがこの辺りは人それぞれだろう。別に恋人同士の日だろうが家族の日だろうがそんなのは個々人が決めれば良いだけのことだ。
「……ったく、お前は相変わらずだな」
「どういたしまして」
「褒めてねえよ」
「褒められているとは思っていませんよ」
「……」
 苦い表情を隠そうともしないまま彼が僕を睨みつけて来る。原因が分かっているせいだろうが、全然怖くない。そもそも彼だって本当に手をあげようなどと思っているわけでは有るまい。そういうのはベッドの上だけで充分だ。
「お前は今年も涼宮達と一緒か」
「そうでしょうね。涼宮さんが色々考えているようですから。僕も準備で大忙しです」
「……楽しそうだな」
「楽しいですよ」
 平々凡々、世間一般に溢れるごくごく普通のクリスマスパーティで涼宮ハルヒが満足してくれると言うのならば文句など付ける気にはならないしそういうパーティなら僕もそれなりに楽しめるだろう。何より、パーティの前の準備期間というのも結構楽しい。多少子供っぽい楽しみ方であることは否定しないが何人かで集まってわいわい騒ぐというのは良いものだ。
「で、お前は俺のことは気にもかけていないんだな」
「僕にとってはあちらの方が大事ですから」
 切れ長の双眸から鋭い光を投げかけられたけれども、僕は回答に迷わなかった。世界のためという名目を別にするとしても、僕にとっては涼宮ハルヒ、いや、涼宮ハルヒを含めたSOS団と過ごす時間は貴重な物だ。生徒会室での実りのない会話や薄暗い部屋で固い身体を重ね合うよりはよっぽど良い。発展性が無いという意味ではどちらも大差ないのかも知れないがだからこそ自分が楽しいと思える方を大事にしたい。
「言い切るのかよ」
「迷うようなことで有りませんからね。僕としては、僕がこれだけ言っても、うわっ」
 いきなり、腕を引っ張られて唇で唇を塞がれた。文字通りの口封じだ。
「何時なら空いてる?」
 顔が離れた時の彼の顔に浮かんでいるのは苦い表情では無く偽悪的なそれで、それを見た僕は、ああ、何時も通りだな、なんてことを思ってしまった。
 僕と彼の間で繰り広げられる会話の長さはともかくとして、その終着点は何時も大体似たような所に落ち着く結果になる。結局、流されているのは僕の方か。
「……当日と前日以外なら抜けられると思いますよ。涼宮さんも鬼では有りませんし」
 他人を振り回してばかりの涼宮ハルヒも、その行動の全てを拘束しようと思って生きているわけでは無い。事情は話せないけれども外せない用事が有ると言えば半日程度の時間を作るのはそう難しいことでは無いはずだ。彼のためにわざわざそんなことをする必要が有るのかどうかという疑問も有るがたまには彼の機嫌を損ねないようにしておくべきだろう。拗ねられて下手な行動を取られても困る。
「じゃあ、前の週の土曜日だ」
「了解しました」
 そんな風に理由を見つけた僕は彼と一つの約束をして生徒会室を後にする。
 彼のことが好きかどうかなんて分かるわけもない。彼は何時も強引で自分勝手でそれでいて半端に物分かりが良いという、対個人という意味で非常に扱いづらい人物だ。その人が好きか、嫌いか。
 ……答えを出すのはきっと簡単で、でもその答えがどっちになったところで溜め息を吐くのが分かっているから、僕は今日も答えを出さぬままこの曖昧な関係を続けていくだけ。
 クリスマスが恋人同士の日かどうかは知らないし僕等が恋人同士かどうかという点についても大いに疑問が有るが、クリスマスの数日前の休日を一緒に過ごすくらい、どうということもない。
 彼はあんなことを口にしたけれども、それらしいことを期待しているというわけでも無いのだろう。僕がどういう人間か、彼だってちゃんと分かっている。
 渡せるのは、大して重みのないプレゼント一つくらい。
 きっと、その程度の関係。



 
 一応出来ているけれども気持ちの上では曖昧なままの二人(071220)