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キョンちゃんと一樹くん 04


「……お前には関係ない」
 無いわけ無いだろう。今のところ俺は古泉の家に押しかけた臨時同居人だ。今の俺がやっていることがまるっきり古泉と無関係だなんて理屈が成り立たないことくらい、俺だってちゃんと分かっている。
 そう……、分かってはいるんだよ。
 認めたくないことが多過ぎるだけで。
「ですが……」
「……」
「あの、ええっと、バストは……」
「何でそんなこと知っているんだよ!!!」
 扉越しのまま振り返っても古泉の顔が見えるわけでもないのだが、扉の向うで、でかい図体を縮こませている古泉が見える気がした。
 お前って、強引なのかそうでないのかよく分らない奴だよな。
「……測り方のページが表示されたままでしたから」
「うっ……」
 あんまりと言えばあんまりな回答に、今度は俺が頭を抱える番だった。
 そう言えば……、適当にページを表示したままだったな、ノートパソコン。
 そんなことすっかり忘れていたぞ。今の今まで。
「ですから、その……、お一人で、測れているのかなと」
「手伝え」
 ええい、こうなったら巻き込んでやる。
 俺もお前も同罪だ。大事なところ諸々を触らせてやる気はないが、手伝わせるくらい有りだろう。そういうことを聞くってことはそのくらいのことはできますって意味だと解釈させてもらうからな。
「え、ええっ……、ぼ、僕がですか?」
 そんなまともに慌てるんじゃない!
 ああもう、ここまで動揺した古泉なんて始めて見たぞ。いや、視覚的に捉えたわけじゃないけどさ。
「お前以外誰がいるんだよ。ここには俺とお前しかいないじゃないか」
「で、ですが、人を呼ぶとか」
「却下だ却下。明日の午前中に届けてもらうためにはタイムリミットが有るんだからな」
 Yシャツの前のボタンをカッチリしめて、扉を開ける。
 案の定というべきか、古泉は顔を赤くした状態でその場に立っているのが精一杯って感じだった。
 お前なあ……、純情なのかバカなのか突発的事態に弱いのか、まあそのどれでも良いんだが、ちょっと慌て過ぎじゃないのか。
 女の子のスリーサイズを測るって言うのならともかく、俺は男だ。確かに今俺の身体は女の子のものになっているが、根っこのところは男なんだ。
 そんな男相手に何をためらう必要が有るって言うんだよ。
 変に意識するんじゃない。意識されるとこっちのが方がやりづらい。こっちまで意識しそうに……、ってそんなわけあるか!
 俺の精神状態は男のままなんだからな。古泉は同性、恋愛や性欲の対象になる人物では無い。はい、これで終了!!
「あの、どうやって……」
「俺が背中向けて脱いだ状態で胸のところにメジャーを回すから、お前は背中でメジャーを合わせてサイズを測ってくれ」
「ぬ、脱ぐって……、ちょ、ちょっとあなた」
「背中だけなら男も女も大差ないだろうが!!」
 叩きつけるように言って、背中を向けてYシャツの前のボタンを外す。
 背後で、古泉が息を呑む音が聞こえてくる。……緊張しているんだろうか。まあ、背中程度でも男と女では多少は違うと思うし、むきだしの背中を触られることに全く抵抗が無いかと言えば嘘になるが、この程度は許容範囲だろう。
「覗きこんだりしたら、殺す」
 ふと背中と言うよりも後頭部に視線を感じた俺は、Yシャツを脱ぐ前に合わせの辺りを手で持ったまま振り返り、古泉にそう言ってやった。
 泣きそうな顔をした古泉が無言で頷いたことは、言うまでもない。


 
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