待ち合わせ五分前



 SIDE:M

 キョンくんと二人きりで遊ぶのはこれが何回目かなあ、何てことを考えながら、わたしは一人駅前の広場に立っていました。
 SOS団のみんなで何度も集合したことが有る場所なんですけど、最近はキョンくんと二人きりで会う機会の方が多くなってきたんですよね。それって……、ううん、そんなことは良いんです。そういう言葉が欲しいわけじゃないですし、言えるわけでもないですから。
 そのせいでちょっと寂しいなあ、物足りないなあって思うときが無いわけじゃないんですけど、それでも、こうしてキョンくんを待つ時間は、とっても素敵な時間なんです。
 もちろん二人で一緒に居るときの方が良いに決まっていますけど、楽しいこと、嬉しいことを待っている時間も、やっぱり、特別で、とっても素敵な時間であることに間違いは無いと思うんですよね。……だからこそわたしは、こうして、待ち合わせ時間より早く来てキョンくんを待っているんです。
 キョンくんはあんまりわたしを待たせたくないみたいですけど……、ごめんね、キョンくん。そんなあなたの気持ちはちゃんと分かっているつもりなんだけど、でも、わたしはこうしてあなたを待って居たいんです。
 あ、駅の向こう側からキョンくんがやって来ました。
 駆け足で、息を切らせちゃって……、ああ、何だか可愛いなあ。
「……おはようございます。すみません、待たせちゃって」
「ううん、わたしも今来たとこ」
 わたしはそういう風に答えてから、今日はどうしますか、何て風に話を切り替えちゃいます。少し困ったようなキョンくんを見たくて少し早い時間に来るように心がけては居ますけど、申し訳無さそうな顔をしているキョンくんの姿を何時までも見ていたいわけでもないんです。……ううん、矛盾していますか? どうなんでしょう、そのあたりのことはわたしには良く分からないんです。
 ただ、わたしは……、待っている時間が好きなのと、遅れてきたキョンくんの顔を見るのが好きだから、こうして、キョンくんより先に集合場所に来るようにしているんです。
 わたしがそうすると、当然、キョンくんも少し早く来るようになるんですけど、もちろんわたしも、それを見越した上でもっと早く来るようにしていますから、今のところ、わたしが遅れてきたことはありません。
「あの、朝比奈さん。……一つお願いしたいことが有るんですけど、良いですか?」
 今日の予定を一通り確認し終わった辺りで、キョンくんがちょっとだけ真面目な表情になりました。
「あ、はい、なんですか?」
「……そろそろ、早く来すぎるのをやめにしませんか?」
「えっ……」
「朝比奈さん、段々早く来るようになってますよね。俺も同じことですけど……。今だって、まだ、待ち合わせ五分前ですよ」
「あっ……」
 言われて始めて、わたしは時計を確認しました。
 確かにキョンくんの言う通り、待ち合わせ前の時間ですね。予定を話すことに、結構時間を割いたつもりだったんですけど……、まだ、こんな時間なんですね。
「朝比奈さんは、俺を待たせるのが悪いって思っているんでしょうけど、それは、俺も同じですし……。ええっと……、すみません、上手く言えなくて」
「……ううん、良いの」
 頭を下げるキョンくんに、わたしはそっと首を横に振りました。
「朝比奈さん……」
「多分、キョンくんの言う通りだから……」
「あ、いや、でも……、ああでも、俺としては、その分だけ朝比奈さんと長く居られるってのは、うん、良いなあ、って思っているんですよ」
 必死に言葉を探すキョンくんの姿は、何だかとっても可愛いです。
 こんな場面でそんなことを口にするわけにはいかないですし、可愛いなんて言われても、キョンくんは嬉しくなんて無いだろうけど……、でも、可愛いんですよね。
「キョンくん……、ありがとう、キョンくん」
「いや、その、お礼を言われるようなことじゃあ……」
「良いんです、わたしが言いたかったから。……それじゃあ駄目ですか?」
「全然、駄目なんてことは無いですよ!」
「良かった。……あ、でもね。わたしが先に来ているのは、悪いと思っているからだけじゃないんです」
「……え?」
「ううん、そうですね……。あ、そうだ。今度待ち合わせするとき、わたしは、待ち合わせちょうどに着くように来ますから、キョンくんは少しだけ先に来ていてください。……そうすれば、きっとキョンくんにもわたしの気持ちが分かりますから」
 論より証拠、と言うんでしょうか。
 待たせるのは悪い気もするんですけど……、でも、言葉で説明するよりは、きっと、この方が分かりやすいですよね。
「……分かりました。そうしますよ」
「うん、そうしてください」
「じゃあ……、この話はここまでにして、そろそろ行きましょうか」
 少しだけ考えるような素振りを見せたキョンくんは、そう言って話を切り替え、わたしに向かってそっと手を差し出してきました。
「はい」
 こういうときってとっても嬉しいんですけどけど、ちょっと恥ずかしいですね……、わたしはあまり手元を見ないようにしながら、キョンくんの手に自分の手を重ねました。……うん、暖かいなあ。
 ああ、でも……、次の待ち合わせは、時間通りに来ないといけないんですよね。
 そうしたら、待っているキョンくんが居て……、うん、何だか不思議。二人のときにわたしより先にキョンくんが来ていることなんて、今まで有ったかなあ……。
「朝比奈さん?」
「あ、ううん、何でもないんです」
 いけないいけない、考え事をしたら遅れちゃいそうになっていました。
 ただでさえキョンくんはわたしの歩幅に合わせてくれているのに、余計に気を使わせちゃ駄目ですよね。わたし、馬鹿だなあ……。うん、次のことは、また後で考えましょう。
 今は、キョンくんと一緒の時間を充分楽しもう。
 早く来た分、時間はたっぷり有るんですから。







 
 お題その二。
 デートの前(始め?)のちょっとした会話(070310)