キョンちゃんと一樹くん、1




 何で俺が女にならなきゃならん。
 という前置き疑問その他は面倒なので一切合切まとめて無視させていただく。
 どうせハルヒパワーの産物に文句をつけても仕方がない。長門に聞いたところ、今度の期間は「最低一週間」とのことだった。
 ……長い。
 その間俺の周囲の認識に一切変化の無いまま女の身体だ。どうやって過ごせば良いんだと思ったら、急な病気で入院、面会謝絶……、なんていう状態をでっち上げてきやがった。古泉が。
 ちと無理がないかと思ったが、長門の細工で俺の携帯にかかってきた電話に出る俺の声だけは男の時のものと同じにしてあるから、ということで押し切らえた。
 こんな方法でどうにかなると思っている古泉や長門も凄いが、これで本気で騙される俺の家族やハルヒや朝比奈さんもどうかと思う。……まあ、気にしても仕方ないか。
 さて、その入院となっている一週間だが、本当に入院するわけにもいかないので、俺は手近なところとして古泉の家に転がり込んでいた。長門の家でも良かったんだが、長門は女の子だし(俺の身体は女でも認識は男のままだ)、あの殺風景な部屋に一週間も居るというのはちょっと辛い。その点古泉は同性だし、長門よりはまだ生活感の有る暮らしをしている。
「だー、もう」
 一日目、着のみ着のままで転がり込み古泉のYシャツを奪い適当に羽織った俺は、奴のノートパソコンを借りてネット通販のページを見ていた。
 女物の服の通販で有る。
 何でそんなものを見ているかと言えば、これから着る物の調達だ。一応、古泉が用意してくれた服も有るには有るんだが……、どうも、俺の趣味に合わない。
 何と言うか、古泉が用意したのは、こう、まさしく、女の子!! と言わんばかりの代物ばかりなのだ。似合う似合わないはさておいて、そんなものを俺が着ると思ったのかね、この男は。
 ……バカじゃないか。
 まあ、そんなわけで服の調達にと思って適当な通販ページを開いているわけだが、電波状況が悪いのか、無線接続のネット回線は切れまくりという状況に有る。
「おかしいですねえ、普段はそんなに切れないのですが」
「お前が妨害電波を飛ばしているんじゃないのか」
「……あなた、僕を何だと思っているんですか」
「変な奴」
 適当に言い捨てて、ノートパソコンを手に持って忌々しいと思う程度には広い部屋をうろうろ歩き回る。
 我ながら何をしているのだろうと思うが、服がないと部屋の外に出られないのだから仕方がない。今日頼めば明日に来る通販でも、何時まで、っていう制限は有るからな、早い方が良い。
 早く外に出たい。
「……なあ、古泉、サイズってどう見るんだろうな」
 電波状態の良さそうな場所で通販の購入作業を再開した俺は、サイズを選ぶところでふと気になって古泉に聞いてみた。他意はない、他に人がいなかったからというのがその理由だ。
 今の俺の体型は……、さて、どんなものなんだろうね。身長はハルヒと同じかちょい高いくらい、体型も多分ハルヒと似たり寄ったり……、いや、もっと細いかね。 
 実際に比べたわけじゃないのでよく分らんが、分かったところでハルヒの詳しいサイズを知らないので意味がない。
 SとかMとかは良いとして、TMとかTLとか……、分かんないな。
「僕に聞くんですか、それを」
 古泉、苦笑。
 ……言われて思わず、俺は目を逸らした。
 あーあー、確かに男に聞くようなことじゃないよな。まがりなりにも今の俺は女の身体で、古泉は男なんだし。
「サイトのどこかにサイズの測り方が書いてありますから、それを探してください。……僕はメジャーでも買ってきます」
 苦笑気味の顔を崩しつつ、古泉は優しい声で言った。
「……頼む」
 踵を返す古泉の背中に、一応頭を下げる。
 ……ちょっと、悪かったかもなあ。


 
 (07)