キョンちゃんと一樹くん、2




 古泉の言うとおり、サイトをめぐればサイズの測り方は書いてあったし、イマイチ理解できない単語もネットで検索すればある程度の情報を得ることができた。
 ネットって偉大だな。
「胸のサイズ、ねえ……」
 でかすぎるYシャツの隙間から、自分の胸元が見える。
 男のものとは明らかに違う、二つのふくらみ。……当たり前のことだが直接見た経験なんぞ皆無に近いので(遥か昔母親のお乳を吸っていたころのことなど覚えているわけもない)、この大きさが大きいのか小さいのかなんて分かるわけもない。ハルヒよりは……、なんでハルヒとか聞くな、最初に思い浮かぶのがハルヒなんだから仕方ないじゃないか。長門や朝比奈さんよりは今の俺の体型に近い気がするしさ。
 ハルヒと同じなら有る方ってことになるんだろうか。それとも、あれは体型と相対的なものだから、あれが標準体形になっても胸があのままだと、標準ってことなのか。
「……よく分らん」
 分からない、と思いつつも何となく自分の胸をYシャツの上から軽く持ち上げてみる。
 ……うーん、柔らかいね。
 手に余るほどじゃない、収まるか若干大きいくらい……。って、女になった少し小さな手で収まるサイズってのは、いかがなものか。
 男の手に収まるくらいがちょうどいいんじゃなかったっけ? どこのエロAVだって言われそうだが、そんな台詞を聞いたことが有るような気がしないでもない。
 男の、ねえ。
 今この状態だと、もとの自分の掌のサイズすら良く分らないのだが……、それでも、足りない、よなあ。
 とまあそんな風に一人で色々考えていたからだろうか、俺はすっかり外界の音を謝絶、というか気付かない状態に有ったらしい。……自分でもあほだと思う。
「ただいまもど、」
 り、より先の台詞が出ない状態で、帰ってきた古泉がぴたりとその場で固まった。
 奴の目の前には、一人胸を触る俺。持ちあげているだけと言えばその通りだが、元よりぶかぶかのYシャツを着た上でそんなことをしているので、大事なところがギリギリで見えるか見えないか、という状態になっている。……ということに俺が気づいたのは、当然、古泉の視線が静止してからだ。
「うわっ」
「す、すみません」
 思わず胸元を隠す俺と、そんな俺を見て弾かれたように後ろを向く古泉。
 おいおい、何だその反応は……、いや、まあ、そこで凝視されても困るし、何事もないように振る舞われたら……、どうせ俺のもとは男なんだがらそういう反応が当たり前って気もするんだが、どうしてだろうな、それはそれで何となく、納得がいかない気がする。
「メジャー」
「あ、はい、買ってきました」
 後ろを向いたまま腕だけを伸ばした俺の掌に、古泉がひょいと買ってきたものを乗せる。
 そんな状態でほんの少しだけ手が触れたのは、多分、偶然だったんだろう。
 古泉の手指が、自分の掌に触れる感触。
 今の自分が女の身体になっているせいだろうか。そんな、ほんの僅かな接触でも、ああ、こいつの身体は、今の俺とは違うんだな、と、実感してしまう。
 今は見上げるくらい背が高いこととか、一見細身なようで結構筋肉がついていることとか、長い手足か、奇麗だけど男っぽい形をした指先とか、大きな掌とか……、今までに見た数々の記憶が、さっと頭の中で高速で再生されていく。
 何だ何だ、何だこれは。
 ただちょっと手が触れただけなのに、俺は一体何を考えているんだ。
 別に、古泉のことなんて、
「……向うで計ってくる」
 考える必要、無いじゃないか。
 ああ、でも、これじゃ……、顔が見られないな。俺は背を向けたまま、メジャーを手に、足早に扉の向こう側の部屋へと向かった。
 古泉が何事か言っていたような気がしたが、無視だ無視。
 
 

 
 (07)