キョンちゃんと一樹くん、こぼれ話1




「な、おま、ちょっと……」
 古泉が考えていることはよく分らない。
 純情なような、経験豊富なような……、どっちなんだろね、この男は。
 何かこいつの背景事情とやらを踏まえると、どっちであっても驚くところじゃないと思うんだが。……だからって、俺が納得しているわけじゃないからな。
「あなたが悪いんですよ」
 何だその半泣き顔は! 表情と行動が全然合ってねえよ!!
 ああもう、そんな顔しながら人様の手首を縛るなんてことをするんじゃありません!!
 うう、ただのメジャーだって言うのに、なんでこんなに硬いんだよ……。くそ、まさかメジャーで手首を完全に拘束されるなんて思わなかったぞ、おかげで抵抗なんて出来そうにないじゃないか。
「何で俺が、んぐっ」
 反論しようとしたら、唇を唇で塞がれたし。
 何だよこれ。これってキス、だよな。……ああ、冷静に考えるんじゃない、俺。こんな無理やりな行為に対しての解説とか説明とかしなくても良いから。
 舌を入れるな、口の中を舐めるな、歯の付け根を舌の先でまさぐるんじゃない。くそ、なんだよこの感覚。
「そんな……、態度を、とるから」
 唇を離した古泉が、息遣いも荒いままの状態で、正面から俺の胸元に手を伸ばす。
 ああ、そうだよ、メジャーで測ろうとかしているところだったからな、俺は上半身素っ裸なんだよ。
 自分でもバカだと思う。
 今の俺は女の身体で、相手が男だって。……そういうことを、奇麗さっぱり忘れていたんだよ。
 古泉が、俺のことをそういう視線で見ている可能性なんてちっとも考慮していなかったんだ。
「ふあっ」
 古泉の手が、俺の胸元に触れる。
 そっと撫でるような優しい手つきに対して抱く感覚が決して不快なものでないって辺りが、絶望へのカウントダウン開始って感じだ。
 何だよこれ。
 わけわかんねえ。
「気持良いですか?」
 胸を揉み解しながらそんなことを聞くんじゃない。答えられるか、バカ。
 って、乳首に触れるな。うわ、ちょ……。ひぁ、反応している、のか、これって。
「ひゃうっ」
「かわいい声ですね」
 かわいいとか言うな……。全然そんなんじゃないから。声は確かに、まあ、女の子のものなんだろうけどさ。
 お前、俺のことなんだと思っているんだよ。
 俺は俺か? それともどっか別の女か何かとでも思っているのか?
 まあ……、聞けるようなことでもないけどさ。
「あなたはかわいい人ですよ。……何時も、ね」
「き、気色悪いことを言うな」
「本当ですよ。……まあ、今は特別、ということにしておいても良いですけど」
 乳首をいじりながら言うなよな……。どう答えたら良いか迷いそうになるじゃないか。
 いやいやいや、そこで迷っちゃだめだろう、俺。
「……そうしておいてくれ」
 そうだよ。今は特別なんだ。
 こんな状態だからこそ古泉は俺に対して性的な欲求を感じているし、俺は俺で、まあ、その……、反応していってことになるんだろうな。
 そう、これは特別なことだ。
 たった一週間限りの、泡い夢。
 そんな、夢の中なら……、まあ、ちょっとくらいなら、古泉の妄想めいた言葉を聞いてやってもやらんでもない、と思うのは、そんなに変なことじゃないのだろう。
 それでも限度ってものがあるわけだが……、って、手を下に伸ばすな。お前どこ触ろうとしているんだよ!
 って言っても、俺はそれを止めることも出来ないわけだが……。
「良いじゃないですか、今は特別なんですから」
 くそ、それを逃げ口上にするんじゃない!
 俺はそんなことまで納得してないんだ。こんな、こんな状況で……、そりゃ、期間限定の女の身体だから、やってみたいこととかは色々有るわけで、そーいう方面に全く興味がないと言ったら嘘になるが、そういうのは、最後の最後のお楽しみとか、決断するものであって……、今日はまだ初日だぞ。っておいこら、下着を剥ぎとろうとするんじゃない!
「後になればなるほど、機会がなくなりそうですからねえ。……あなたは結構強情ですし」
 どういう理屈だよそれは……。
 くそ、このままされるがままかよ。
 ……ああ、もう、どうにでもなっちまえ!!
 



 
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