触手




 ぬるぬると俺の身体を這い回るそれは、地球外生命体という奴なのだろう。
 食虫植物の類には詳しくないが、人間、いや、動物を捕まえるまでならばともかく、ご丁寧にボタンを外したりベルトのバックルをいじったり出来るような植物が地球上の生き物だとは到底思えない。
 しかし、なんでいきなりこんな事になっているんだ。俺は家のベッドで寝ていたはずだぞ。
「ああ、やっと目を覚まされましたか」
暗闇に響くきき覚えのある声。朗らかとさえ表現しても差し支えなさそうなそのこえの持ち主は、声の印象と寸分の狂いもない微笑みを浮かべていた。
「……古泉」
 俺の記憶及び視覚と聴覚に異常が無ければ、それは限定的超能力者である古泉一樹に間違いなかった。ただし、白衣姿の古泉をみたのはこれが初めてだ。
 白衣なんてのは高校生という年齢にはそぐわない衣服だと思うんだが、何故か白衣姿の古泉は嫌味なくらい様になっていた。くそ、これだから美形は。
「お前……何を企んでやがる」
 さっきから嫌な予感が止まらない。この状況からして既に予感云々などと言っている事態じゃないと思うんだが。
「企んでいるだなんて、そんな……僕はただ、あなたの身体を少しの間お借りしようとおもっただけですよ」
 だけ、とかいうな。
 他人の身体を借りたい、なんて発想をする時点で異常だ。
 古泉の言う「借りる」という言葉の意味が穏やかなものじゃないのはこの状況を見れば火を見るより明らかだ。俺は触手に絡め取られ身動き一つとれず、おまけに服まで脱がされかけているというのに、古泉は完全に自由な身で触手に襲われそうな気配さえない。
「……この生き物達はね、地球でいう哺乳類に該当する生命体の胎内に卵を植え付けることが出きるんです」
「なっ……、お、俺は男だぞ」
 真に突っ込むべきところはそこではなかったのかも知れないが、俺は反射的に言い返していた。
「彼らは植え付ける母胎の性別を問いません。要は身体の中に卵を保持できる場所があれば良いだけの話ですから」
 ……洒落になってねえ。
 哺乳類に寄生して子供を生ませると言う時点で相当気持ち悪いが、性別問わずって、何だよ、それ。
「まあ、それくらいならよくある話というか、それほど特殊な事象ではないと思うのですが」
 俺にはその時点で十分おかしいと思えるんだが。
 いや、別にお前の知識を披露しろって言っているんじゃないからな。俺はその手のおかしな生命体のことなんてこれっぽっちも知りたくないし体験したくもない。
「彼らの凄いところは、母胎の特徴を引き継いだ新しい生命体を誕生させる能力が有るところでしょうね」
 ますます洒落にならないと言うか完全なる未知の世界だ。俺はこんな形での未知との遭遇は求めてねえ。
「後、もう一つ」
 古泉がそこで一端言葉を区切る。何がもう一つだ。俺は嬉しくも何とも無いどころか絶望にたたきおとされているような状態なんだ。これ以上聞きたくない。
「彼らは、自らの卵と母胎の遺伝子、そして、母胎と同種の生命体の精子を掛け合わせて子 供を作ることが出きるんですよ」
 背中がぞくりと震えた。今、何か途轍もなく恐ろしいことを聞かされたような気が……。
「僕は、あなたとの子供が欲しいんです」
 ……狂っている。
 男が男との間に子供が欲しいと思う時点でおかしいし、それだけならまだ夢物語的な妄想の一つと言えるかもしれないが、そのために化け物の力を借りようとするなんて……まともな人間の考えるようなことじゃない。



 
 触手ネタ。初っ端から古泉の発想がおかしいです。そんな話