springsnow
beloved
普段余り人の居ない公園で、子供達が遊んでいる。
年齢は小学校に上がる少し前くらい、遊具を使っての遊びらしい。
「楽しそうですね」
ぼんやりと立ち止まって彼等の方を見ていた私の背に、一緒に歩いていた古泉一樹の声が掛かる。
こっちの方に用があるからと言って普段分かれるはずのところから同じ道を歩いていた彼が、私に合わせて歩みを止める理由は無い。
「……」
「どうかしましたか?」
見上げる私を見て、彼が問いかけてくる。
疑問系の言葉に、何時もの表情。
わたしとは違う意味で余り表情を動かさない彼が一体何を考えているかはわたしの知るところではないし、興味を抱くような所でも無い。
普段なら、だが。
「……別に」
わたしの心に生まれる、極僅かなノイズ。
表す言葉を知らないわたしは、さっと顔を背け道を進む。
「ああ、待ってください」
背を向けて歩き出すわたしの後ろを、彼が着いてくる。
歩幅が違うので当然すぐに追いつかれる。
「ああいう光景を見ると、和むんですよ」
「……」
「懐かしいと言った方が正しいかもしれませんが……、もっとも、自分が子供の頃の記憶なんて美化されているものですから、本当の意味での懐かしさとは違うと思いますが」
理屈っぽく語る彼の言葉の意味するところは、わたしにはよく分からない。
懐かしさという感覚はわたしには存在しない。
わたしの人生と呼べる期間はこの惑星の知的生物としての外見から想像できる年数より随分少なく、当然、子供時代という時期も無かった。
この惑星に普通に生まれ育った彼と、統合思念体の作り出したヒューマノイド型インターフェイスのわたしとでは、根本から違う部分が多すぎる。
歩んできた年月も、その一つ。
「……」
「何時か、あなたにも分かる時が来ますよ」
違うということを彼もよく分かってるはずなのに、彼はそう言った。
根拠は分からない、言われてもきっと今のわたしには理解出来ない。
けれど。
何時かそうなれば良いのかも知れないと、そのときのわたしは思っていた。
有希視点では一樹も普通の人間と変わらないのかも(060902)