Love me Tender
(本文p17〜18、p22〜23より)

「みなさん楽しそうですね」
 女子達全員が次に着替える物を選び終えスタッフを連れ試着スペースに引っ込んだタイミングで、俺の隣に立っている古泉が言った。
 若干疲れ気味なのか何時も通りのはずのスマイルが少々陰り気味だ。手持ち無沙汰な状況ってのは意外と疲れるものだ。
「そうだな」
 古泉の言うとおり女子達三人が楽しんでいるというのは間違いないだろう。ハルヒが楽しんでいるのは何時ものことだとして、朝比奈さんや長門も楽しんでいるというのは良い傾向だ。この衣裳部屋や更衣室、撮影スペースを出ない限り実害もないし暫く放っておいても良いんじゃないか。世界を改編する要素や閉鎖空間が発生する可能性も無さそうだしさ。
 立っているだけの俺達が若干の精神的肉体的疲労を溜めていることは確かだが、ストレス解消に関しては後で何か考えれば良いさ。
 というか、その時は付き合え。
「……分かっていますよ」
 俺の発言の意図を汲み取ったのか、古泉が若干頬を赤らめる。そのストレートな反応はさすがにどうかと思う。今ここには俺と古泉しかいないわけだから他人に見られているという可能性は低そうだが、隣に居る俺が恥ずかしい。
「まあ、相手役を務めろと言われなかっただけマシだと思うことにしましょうか」
「あのなあ……」
「だって、そんなの嫌でしょう?」
 スマイルを崩さぬまま、古泉は訊ねてきた。俺のちょっとした文句を煙に巻くときと似た笑顔だ、と思ったのは気のせいでは有るまい。
「……」
 嫌かと問われれば確かに嫌だが、それをはっきり言葉にするのは少々躊躇われる。とはいえ、俺が心の中でいくつ言い訳じみた言葉を幾つ並べたところで大した意味は無い。どうせ古泉にはすべてお見通しなのだろう。
 恋人でも無い相手の恋人役を務めるのは嫌だとか、恋人が自分以外の誰かとそんなことをするところは見たくない、だとか。言葉にしなくとも伝わってしまう極めて分かりやすい結論を察した古泉が、小さな笑い声を零した。ただしそれは俺の予想した軽い響きをもつものでは無く、少し苦いものが混じったようなものだった。
「……なんだよ」
「ああ、いえ、何でも無いんです」
 呟く俺の前で古泉が首を振る。
 鈴なりとなった貸し衣裳を見つめる古泉の横顔が何だか悲恋に酔っている乙女のようだ、などというバカなことを考えそうになった俺の頭を誰か殴って欲しい。




「おい、古泉」
「あ、はいっ」
「何か心当たりでも有るのか?」
「いえ、そういうわけでは……」
 詰め寄る俺に対し古泉は首を振った。
 もしかしたら何か考えごとでもしているのかと思ったがそういうわけでは無いらしい。じゃあ、一体何だ。何でここで視線を外す。
「あの……、服が、ですね」
「へ? ああ、服?」
 服が一体何だって言うんだ。ただの寝巻き代わりのシャツじゃないか。確かに体型が全体に小さく小型化した分多少服の袖や首もとが余り気味だが、特に問題は無いだろう。まあ昨日服を着ていて良かったとは思う。起きていきなり全裸だったらその衝撃に耐えられなかった可能性が高そうだからな。前置き無しで全裸姿の女子に遭遇なんて、思春期の男子には刺激が強すぎだ。それが自分のものだと気付いたとしてもその場で冷静になれる自信なんてないね。
「だから、その、」
「はっきり言え」
「あの、胸元が……、見えるん、です」
「……は?」
 胸元、胸元って……、おお、そうか、確かに見えているな。寝巻き用に用意した元々少し大きめのシャツだったから、今は完全に規格外状態だ。
 ふーむ、古泉にはこれが気になるのか。まあ、女の子の胸だもんな。持ち主である俺でさえシャツを持ち上げて中を見るのにはちょいと勇気がいる。あ、また古泉が目を逸らした。
「そのポーズは、ちょっと……、刺激が強すぎます」
「刺激って……」
確かにこの身体は女の身体だが、所詮俺の身体だぞ? 女子の身体に詳しいわけじゃないから体型については何とも言い難いが、そんなに胸が有る方でも無いだろうし。というかお前普通に異性の身体に欲情出来るんだな。根っからの同性愛者では無いらしいというのは知っていたつもりだったんだが、何だか新鮮な感じがする。