WITH A CAT

 休日の朝という何物にも代え難い貴重な時間、僕は大抵二度寝して昼くらいから活動を始めている。昼までぐっすりではなく一度目を覚ましてしまうのは僕のベッドの枕元がちょうど朝の光が入ってくる場所に有るからというごく単純な理由によるものだ。熟睡した方が身体には良さそうなのだが心情的には二度寝の方が心地よい――と、感じるのは、カーテンを買い忘れていることへの言い訳になるのだろうか。ここで暮らし始めてから早二年、カーテンが欲しくなることもあるが実際に買い物に行くと忘れているということを繰り返している。
 とにかくそんな理由により、僕は本日も朝の陽ざしによって自然と瞼を持ちあげつつあった。大抵の場合は半覚醒くらいになってからもう一度眠りへと落ちる。時には立ち上がって水分補給に向かったりもするがそんなことは稀で、今日もまたこのまま二度寝かなとぼんやりと考えていたところで僕は有る違和感に気づき急速に覚醒を促された。
 瞼を持ち上げた先にある、毛布の中の不自然なほどの膨らみ。規則正しく上下するその内側から、吐息のようなものが聞こえてくる。
 ――誰か、居る。
 突如冷や水を浴びせられたかのような事態に遭遇した僕は混乱し始めそうになった頭を必死で抑えこの状況がどういう理由により齎されたものなのか思いだそうとしてみたが、心当たりなど何一つ浮かばなかった。そもそも、昨日三軒目によった居酒屋の前で同僚達と別れたところからの記憶が残っていない。記憶が無くとも自宅に帰りついたことは今までも数度有ったが、記憶が無いまま人を連れ込んだようなことは無かった。
 というか、この人誰。
 同僚達と別れたところまでの記憶が有る以上同僚の誰かと言うことはなさそうだが……、僕は恐る恐る毛布をずらし、その中にいる誰かが一体どこの誰なのかを確認することにした。酔った僕がご近所さんの誰かを連れ込んだとかいうことだったらまだ良かったのかも知れないが(いやそれだって大問題だが)はたしてその中にいたのは僕の全く知らない人物だった。
 瞼を閉じ身体を丸めたまま眠り続ける、中学生くらいの少年、だと思う。髪の短さと顔立ちから一応少年と判断したが自信はあまり無い。少女だったとしても驚かない。僕が驚いたのは、その少年の頭に有る不自然な毛の塊と、彼が僕の服を着ているという事実の方だった。毛の塊の正体はすぐに分かった。これは猫の耳だ。ということは、彼は人間では無く猫なのだろう。問題は、彼が僕の服を着ているということの方だ。幾ら僕が酔って帰ってきたとはいえ見知らぬ猫が勝手に僕の家に上がり込んで僕の服を着ているという自体は考え辛い。ということは、彼を家に入れたのも、服を着せたのも僕ということなのだろう。猫とはいえ見た目は中学生くらいの少年で、その少年を僕が家に招き入れて――だんだん頭が痛くなってきた。昨日の僕は一体何をしていたんだ。相手が猫だから良いようなものの(あんまり良くないかも知れないが)人間相手にやったら犯罪だぞ。いや、僕が彼に服を着せる以上のことをしたと決まったわけじゃないけれども……。って、それ以上って何だそれ以上って。いくら酔っていたとはいえ初対面の、それもこんな子供を家に連れ込んで服を着替えさせる以上のことをするほど僕は人間として終わっていない。うん、そうだ。それ以上のことなんてきっとないんだ。酔って帰った挙句どこから持って来たか分らないようなものを家に持ち込んだりしたことは一度や二度では無いので、酒が入っているときの自分の行動にはあまり自信が持てないのだが……。
「ん……」
 混乱しかけている僕の目の前で、猫が手で瞼をこすった。手や腕の形は人間と同じだ。聞こえて来る声は外見から想像出来るものよりもやや低い。どうやら性別については僕が想像した通りで間違いなかったようだ。



「じゃ、じゃあっ」
「お願いします。手で……、やり方は、分かりますよね」
 さっきのビデオの中にも手や口でやっているシーンは有った。――どうかそれ以前からそのための知識を持っていた、ということでは有りませんように。
「あ、うん」
 こくりと首を縦に振った彼がソファから降り、ソファに屈みこんだ僕の前に腰を下ろす。彼は一度だけ僕の方を見上げてから、僕の股間へと手を伸ばした。ゆっくりと伸びていくその手は躊躇っているようでも有るし怖がっているようでも有るけれども、今更止めることは出来ない。ここで、やっぱり良いですよ、などと言ってもそれは彼を傷つける結果にしかならないだろう。自分勝手な考えかも知れないが、僕は座ったまま彼がゆっくりと手を動かすのを眺めていた。細い指先がジーンズをなぞり、ファスナーに触れる。ジジッと小さな音が鳴り響きながらファスナーが下される。DVDを消したからだろうか、そんな小さな音ですら耳に響く。
下着の中にある物に、彼の手が伸びる。
「うわっ……」
 勃起した性器を見るのはこれが初めてなのだろうか、彼が目を丸くしている。パチパチと瞬きをしている様子が可愛らしい気がするけれども、それと同時に何だか申し訳ない気持ちにもなって来る。本当に良いのだろうか。彼はまだ自分で出すということさえ知らないかも知れないというのに。彼の言葉から考えられるように、年齢的なものでは無く猫にはその必要が無いということなのかも知れないけれども。
 指先が動いて下着の中から固くなった物を取り出し、直接触れて来る。誰かに触られるのはこれが初めてじゃないが、こんなに幼い相手、それも同性に、なんていうのはもちろん初めてだ。そもそも性別や年齢以前に彼は種族さえも違う。もっと落ち着いた状況ならば冷静になって留まる要因になったであろう各種要素が、躊躇いがちな指先が筋をなぞるのに合わせるかのように倒錯的な感情にとって代えられていく。
「んっ……」
「なあ、こんな感じで良いか?」
「ええ……、とても、気持良いですよ」
 手を伸ばして彼の頭を軽く撫でる。耳の後ろに軽く触れたら、彼が小さく猫の声で鳴いた。
「ん、そっか、それなら良かった」
 答えると同時に、彼の手の動きが少し早くなる。
 裏筋をゆっくりと丹念に撫であげられ、腰が震えた。まずい、相手は初心者だからもっと時間がかかるだろうと思っていたのに、これじゃすぐに頂点が見えてきてしまう。いや彼にかかる負担や手間を考えたら早い方が良いのかでもそれじゃまるで僕がそうろ――何を考えているんだ僕は。



 本文より一部抜粋しています。