F/M

「事情を説明しろ」
 挨拶も無く現れた長門さんに対し会長は僕が来た時と同じことを言った。
「……」
 長門さんがギギっという擬音さえ聞こえそうなほどぎこちない仕草で僕の方を見上げた。言われたことの意味が分からないというわけでは無いのだろうがどこまで話せば良いのかの判別がつかない、ということなのだろう。
「彼がこうなった原因は涼宮さんに有るんですよね?」
「……そう」
「その経緯を簡潔に説明していただけますか?」
 さて、果たして僕の意図は通じているだろうか。残念ながら僕の長門さんに対するアイコンタクト能力はそれほど高くない。
「……分かった」
 長門さんはほんの数ミリだけ首を縦に動かすと、事情を説明し始めた。
 途中に脱線もとい謎の単語及び要らぬ説明の入る彼女の説明を要約すると、どうやら四時限目の途中に涼宮さんが言った「やっぱり女の子キャラのライバルって女の子の方が燃えない? 料理対決とか好きな相手を奪い合ったりとか美人コンテストとか」という、非常にバカバカしい台詞がその原因らしかった。何でその台詞が出たかというと、何でもコンピ研の部長氏から借りた女の子が主役の恋愛ゲームが――何故男性である彼がそんなゲームを持っていたのかとか、どうして涼宮さんがそのゲームを彼から借りることになったか、なんてのはこの際どうでも良い。どうでも良い、が。……あなた達二人とも何やっているんですか、くらいの文句はつけたくなる。朱に交われば何とやらを地で行きすぎだ。
「……アホか、あいつら」
 どうやら会長も同じ気持らしい。バカバカしいにもほどが有るが、バカバカしかろうが何だろうか彼の性別が変わってしまった原因がそこにあるという事実に間違いは無い。ちなみに長門さんの情報は妙な探査能力を使ったものでは無く実際に彼女が耳にしたものである。四時限目は体育だったため隣接するクラスである長門さんも涼宮さんと一緒だったのだ。というより、長門さんがそこにいたからこそ部長氏に関連する話題が出たと言った方が正しいのかも知れない。長門さんもそのゲームをやったことが有るんだろうか。
「涼宮ハルヒはあなたとの直接対決を望んでいる」
 僕と会長がこの事態に対する対処方法を訊ねるよりも先に長門さんは単刀直入に言い切った。……あなた、今、何て言ったんですか。
「直接対決? なんだそりゃ? また何か用意するのかよ」
「用意する必要は無い。舞台は既に用意されている」
「それは……、会長の性別以外にも改変されている事項が有る、ということでしょうか」
「そう」
 嫌な事態になって来た。さっきまで割と飄々としていた会長が眉を寄せている。今度は一体何が起こったというのだろう。
「あなたの性別が改変されると同時に世界そのものも多少改変されている。あなたはこれから一週間、涼宮ハルヒと一人の異性を取り合うことになる」
「……は?」
「対象は古泉一樹」
 ………………は?



 本文より一部抜粋しています。