「……んっ」
 古泉が赤くぬめった舌を伸ばし、まだ立ちあがりきってない胸の突起に絡みつかせた。男の乳首が性感帯であるかどうかという件について今更語る気はないが、吸いつく方は一体何が楽しいのだろう。男の胸なんて柔らかくもないしきめ細やかな肌に包まれているというわけでもない。他人と比べたことが有るわけじゃないが、俺の肌に何か特筆すべき要素が有るとも思えない。
「あ、やっ……うぅっ」
 チリチリと、胸から腰の方へと微弱な刺激が通り抜けていく。舌が絡んで無かった方の乳首をぎゅうっと摘ままれて、鼻から熱い息が抜けていった。自然と揺れてしまう背中が便器の後ろの水槽にぶつかる。カツッ、と聞こえたのは、皮膚の下の骨と陶器が当たった音だ。結構痛い。
「つっ……」
「大丈夫ですか?」
 古泉が俺の背中に手を差し入れ、体勢を整える。一応俺の身体のことを気遣ってくれたんだろうが、それだけが目的ってわけでも無いだろう。身体の位置を少し動かされ、さっきよりも距離が近くなる。古泉は片手だけで俺のベルトの留め金を外すと、あっという間に前を開いた。下着の中から取り出された物が既に硬くなりかけている件については、何かもう、言葉さえ浮かばない。思わず目を逸らしたら今度は耳元にキスをされた。
「ひゃっ……や、め…」
 身体を竦ませて一瞬でも動きを止めてしまったらしまったらそれこそ古泉の思う壺、好きなようにされてしまうと分かっているのに、身体は言うことを聞いてくれない。というか、突然耳たぶに舌や唇が触れれば誰だって動揺するさ。慣れることが出来るようなもんじゃない。
 耳元に有った舌を振り払い頭ごと遠ざけてから向き直ったら、今度はほぼ正面から目が合った。艶めいた印象なのに悪戯好きの子供のようでもあるという矛盾を孕んだ瞳が、俺のことを見下ろしている。それはまるで、大人になるために必要な何かを得られないまま大人になってしまったような――まあ、それが何かなんて、俺に分かるわけないんだが。
 性的な方面に関しては妙に詳しかったり器用だったりするし、一般的な意味でも知識豊富、頭の回転も早いし割としっかり者タイプのように見えるというのに、なんでこいつはこんな子供っぽい側面を持っているんだろうね。理由に関しては薄々心当たりが有るんだが、生憎俺にはそこへ踏む込むだけの権利が無いし、踏み込む気も無い。見えるもの、そこに有るものがその全てだと、そう思っている方が古泉にとっても都合がいいのだろう。
近づいて来る唇に従うように唇を開き、その舌を中へと受け入れる。ここまで来たら逆らう理由もない。トイレで、ってことに対する抵抗はまだ残っているんだが、その点については目を瞑ってしまおう。宙を彷徨っていた手が俺の性器に触れて来たので、俺も手を伸ばし古泉の股の部分をそっと撫で上げた。硬く張り詰めたそれはもう大分きつそうで、出してやった方が良いのか? と思ったが、生憎俺は視界が塞がれた状態で他人の服を脱がせるほど器用じゃない。
 舌先を触れ合わせ、互いの舌を絡ませる。ざらりとした部分が歯列の裏側をなぞるたびに背中が震えてしまう。咥内での舌の動きと性器を握る手付きが連動しているように感じるのは俺の気のせいではないのだろう。二ヶ所から同時に与えられる刺激が、身体の中で混ざり合う。……熱い。
「ぷはっ……」
 キスの後に空気を求める自分の声には相変わらず色気も艶っぽさも無い。一男子高校生である自分にそんなものがあってたまるかという気もするのだが、同性異性問わず魅了出来そうな表情を浮かべている古泉と比べると物凄い落差だ。だからどう、って言うわけじゃないんだが、全く気にならないと言ったら嘘になる。
 ちろちろと揺れる舌がゆっくりと首筋を這い、胸の中心を通って下へ下へと向かっていく。臍の下の茂みを通り抜けて、その下まで。
「…あっ」
 ぱくりと先端を加えられて漏れたのは、非常に間抜けな声だけだった。これで古泉が萎えないのが不思議だ。唾液を擦り付けるようにしているのも、ぴちゃぴちゃと音を立てるようにしているのもわざとだと分かっているのに、心臓が高鳴っていくのを止められない。時折口の端から見える赤い舌が、たまらなく卑猥だった。溜まっていく快楽とのぼぜあがっていく頭は、この状況に対する疑問を薄れさせる。放課後、旧館のトイレ、男同士で――この状態を受け入れているという事実に対する後ろめたさが脳内を駆け巡った後にたどり着く先は、快楽なのだ。


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