Boys be... 「さあ、今日も行くぞ! お前等皆俺に着いて来い!」 今日も元気な団長様は、その有り余る元気さが見て取れるような快晴のような笑顔と共に、大きくてを振り上げた。 涼宮ハルヒ。 やや小柄で童顔だが、大人のお姉さんの琴線に良い感じに触れそうな美少年だ。 元気でいいことだが、悪いが俺にはそれに着いていく元気がない。というかそんなもんとっくの昔に搾り取られた気がしてならない。主にハルヒによって。 「えいえいおー!」 「おー!」 元気よく答えたのは副団長の古泉一樹。 まあ、こいつは何時もこんなものだ。 ちなみにこいつもハルヒとどっこいどっこいのハンサム野郎であり、この面子の中では一番長身と来ている。 忌々しい事だ。 「おっ、おお!」 どこかどもりがちなのは朝比奈みくるさん。 一年だらけのSOS団の唯一の上級生であり、どういうわけか何時も女の子の格好をしている人……、その格好がやたらめったら似合っている上、部室じゃメイド服だし、名前も女の子っぽいが、彼もれっきとした男である。 外見からはちっともそう見えないが。 まあ、今は制服なのでちゃんと男に見える。……と、思う。 「……」 三点リーダ存在主張は長門有希。 無口無表情系文学少年だが、こいつは何かもう性別を始めとしていろんなものを超越しちまった雰囲気を持て居るような気がしないでも無い。 「ほらキョン、お前もちょっとは気合を入れろ!」 どこに気合が有るのか全く分からない長門のことを完全にスルーして、ハルヒが俺に詰め寄る。 近寄るな、顔近い。 「気合ってなあ……」 「こういうのは勢いが肝心なんだよ!」 そう言われてもなあ……。 男ばかりのこの状況で、気合も勢いも無いだろ。 この怪しげな団体は何でここまで色気と無縁かね。 お隣のコンピ研はその活動内容に反するかのように全員女の子だというのに。 お隣の女子達を全員束にしたってみくるちゃんには敵わないとかお前さんは言いたいんだろうが、そもそも性別が違う時点で比べるのが大間違いであり、その比較はコンピ研にも朝比奈さんにも大いに失礼だ。 俺だって朝比奈さんが癒し系キャラである事は否定しないが、彼一人では癒しきれないものもあるさ。 ああ、男に癒されるのはどう何だとかいう葛藤は数ヶ月前に捨てさせていただいた。本当は捨てたくなかったんだが、捨てないとそろそろ限界って域だったからな。これも主にハルヒのせいだ。 しかし、今日は一体なんなんだ。 春休みももうすぐだという短縮授業の午後、一体どこへ行こうって言うんだ。 いや、行き先は分かっている。何時もの市内探索だ。 しかしだな、何故男だらけで行かなきゃならない。 阪中とか鶴屋さんとか、華になりそうな人材をたまには誘ったらどうだ。 なんなら谷口でも良いぞ。あんなんでもお前や古泉のハンサムスマイルを常時見ている状態よりは全然マシだ。誘ったら古泉が長門辺り目当てであっさり着いて来そうな気がするしさ。 「SOS団は5人で居ることで意味が有るんだよ。そうだよね、古泉くん?」 「ええ、涼宮さんの仰る通りです」 イエスマン野郎の古泉が頷いた。 こいつは何時もこうだな。 逆らう気が無いって意味では朝比奈さんも長門もあんまり変わらない気がするが。 「全くキョンはやる気って物が足りないよね。ま、いいや」 ハルヒはそのまま説明は不要とばかりに踵を返し、坂を下っていく。 「っておい、どこへ行くのか説明しろよ」 「駅前の喫茶店」 ……。 ……なんで男ばかりでそんなところへ行かなきゃならん。 いや、そもそも、駅前に喫茶店なんかあったか? 「新しく出来たんだよ。怪しいと思ったから調べるのさ」 喫茶店に怪しさを求めるな。 UMA探索に出かけたりするよりはなんぼかマシなのは認めてやっても良いが。 「喫茶店ですか〜、美味しいケーキが有ると良いですね」 朝比奈さん、なんですかその女の子みたいな意見は。 っていうかあなたもやっぱり行き先は知らなかったんですね。 まあこういう場合行き先を知っているのはハルヒだけか、ハルヒと古泉だけってのが定番ですが。 「クラスの女子が言っていましたけど、チーズケーキがお勧めだそうですよ。お値段も割と手頃なようですし」 吹き込んだのはお前か、古泉。 「安くて美味しいってのはいいことだけど、ちょっと裏がありそうだよね」 無い、絶対無い。 まかりまちがって喫茶店の出店が機関の差し金だとか長門の親玉が裏に着いているとかなんてことが有っても……、ふと考えてみたが、意外とどっちも有りそうで嫌だな。 最近のハルヒは、結構些細な事で満足するようになっているみたいだからなあ。 しかし、制服姿の男5人で喫茶店はどうかと思うぞ。 私服ならまあ、朝比奈さんと長門が女の子に見えなくも無いから、俺の心の寂しさは同じでも、世間の目はくらませているような気がするが。 「じゃあ、俺はやっぱりチーズケーキかなあ」 ハルヒ、お前はチーズケーキが食べたいだけじゃないのか。 「……アップルパイ」 長門、そんなところでだけ自己主張するなよな。 というかお前等二人みたいな大食いは、あれこれ主張せず食いたいだけ食っとけ。 「僕はどうしようかな〜、ううん……」 「メニューを見てから決めればいいと思いますよ。何ならシェアしても良いでしょうし」 「あ、うん、そうですよね!」 この似非敬語コンビの胃袋は真っ当だ。 朝比奈さんなんて、同世代の女子の平均より食ってないんじゃないかって気もする。 しかし男同士でケーキをシェアってのはどうなんだ。前に私服姿の朝比奈さんと古泉が似たようなことをやっていた時は、うっかり微笑ましいなんて思いかけた挙句、後で本気で死にたくなったものだが。 「早くいこいこ、でないと売り切れちゃうよ!」 ああ、もう。 ツッコミを入れるだけ無駄みたいだな。 しかしだな、何が悲しくて男ばかりで……。 当たり前だが、男ばかりで喫茶店に入る団体なんて俺達くらいである。 女ばかりの中、俺たちは間違いなく相当浮いていた。 これで面子が不細工だって言うなら理解できなくも無いが、ハルヒも古泉も絶対女には困らなさそうな外見だし、朝比奈さんは朝比奈さんで母性本能擽り系に見えるしなあ。 俺と長門は、まあ地味キャラなんで省かせてくれ。 「ん、美味い」 一口で食べながら言うな。 ハルヒよ、お前はどうして何時もそうなんだ。 もうちょっと味わうってことをだな。って、人のケーキを取ろうとするんじゃない。 「食わないんじゃないの?」 「食うよ。てか、お前と同じ速度で食えるわけないだろ」 まだ半分も食べてないレモンパイを死守する俺。 このレモンパイも結構美味い。 ハルヒはちょっと眉を寄せつつも、すぐに興味を無くしたのか、今度はチョコパフェとショートケーキを注文した。 まだ食うのかよ……。いや、脇から長門も追加注文をしているけどさ。 「それも美味そうだよね」 お腹が空いているのか待っているのが退屈だったのか、ハルヒが朝比奈さんの食べているミルフィーユを見てそんなことを言う。 他の全員が一通り食べ終わったというのに、朝比奈さんは未だにちまちま食っている。 とても微笑ましいことだが、その様子はとても高校二年生とは思えない。 「あ、食べますか?」 朝比奈さんが食べかけだったミルフィーユをハルヒに差し出す。 もうお腹一杯なのかもな。 「ありがと。ん、美味い美味い」 だからお前は人から貰った物まで一口で食うな。 溜息を吐きそうになる俺、そんな俺を無視してやって来た追加注文分のパフェやらケーキやらを平らげるハルヒと長門。 別に俺も甘いものは嫌いじゃないが、お前等良くそんなに食えるな。 見ているだけでお腹一杯になりそうだよ。 メニューの紅茶のリストを見ながら話している朝比奈さんと古泉の会話には、俺はさっぱり着いていけないので、仕方が無いので俺は全員を適当に眺めるだけだ。 男同士でこの光景は、絶対におかしいよなあ。 心なしか、周りの客からも見られている気がするし……、北高生にはお馴染みの光景だが、関係無い連中には不思議に見えるのだろう。 出来るなら、周囲の皆さんには今日のことを記憶に留めないで頂きたいのだが……。 ブログに書いた物に少し加筆。BLを目指したはずなのに色々外したままなのは内容が余りにも日常的なのもありますが、何よりキョン視点だからじゃないかって気がしてなりません……。 そんなキョンの思考が同じところをぐるぐる回っているわけですが。 文中でも出しましたが、この場合はコンピ研も谷口も女の子です。(061102) |