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キョンちゃんと一樹くん 05
Yシャツを軽く脱いで、古泉の方に向かって背中を晒した状態でメジャーをひょいと身体に回す。回す時に胸の下のあたりがちょっと見えるんじゃないかと思ったが、その辺りは気にしないことにしよう。大事なところが思い切り見えたとかじゃないんだし。
「とりあえずアンダーからだな」
メジャーを手渡しながら言ってやる。おいおい、お前手震えているぞ? そんなに緊張するものでもないだろうに。
「あ、はい……」
メジャーが身体にひっつく。
それと同時に、古泉の指も俺の背中に触れることになる。そろそろと、探るように……
、って、それは、測るときの手つきじゃないと思うぞ。スリーサイズを測るのはこれが初めてだが、身体測定とかで経験してきた各種サイズを測る看護師さんやら養護教諭やらの手つきはもっと事務的なもんだったはずだ。例えそれが異性相手だとしてもな。
お前もそのくらい……、って、引っ張るな。痛いから。
「あ、すみません……。このくらいで良いですか?」
「ああ……、幾つだ」
「えっと、66、ですね……」
「細いなあ」
思わず素直な感想が口から洩れる。ってことはアンダーは65で良いか。元々5センチ単位の物だし、一センチくらいホックか何かで調節出来るだろ。まあ、ブラジャーだったら適当なサイズを大量に購入して合うものを選ぶ方式でも何とかなりそうだしな。服と違って直接人目に触れるものでもないし。
「……そうですね」
相変わらずどこか遠慮がちでは有るが、この古泉の言葉は素直な感想ってことになるのだろう。てか、お前、何時まで背中触っているんだよ。くすぐったいじゃないか。
「んっ」
うわ、変な声が出た。
「あ、ああ、すみません……」
古泉がぱっと手を離す。途端に呼吸が少し楽になった気がしたのは、胸を圧迫していたメジャーが無くなったからだろう。メジャーを当ててるだけなんだが、これだけでも結構気になるものなんだな。ブラジャーなんて……、うーん、あんまり締め付けがきつくなさそうなのを探すか。時間はあんまりないが、ま、タイムリミットが先に来そうだったら、明日一日くらいはブラジャー無しで過ごしても良いだろう。
「次はトップな」
次っていうかこれで最後なんだけどな。
「あ、はい」
渡されたメジャーを、古泉が震える手で手に取る。
古泉、お前緊張しすぎ。
例えお前が今の俺の胸のサイズを知ったところで、一週間後には露と消えるようなことなんだぞ? そんな儚い知識を相手に緊張してどうする。そんなの人生、いや、青春の無駄遣いってものだろう。
まあ、青春なんてのは無駄遣い上等、って気もするけどな。
……だとしても、古泉がこんなところで青春を浪費する必要は全くないと思う。もちろん俺もだが。
胸を持ちあげつつ。腹の当たりまで下がっているメジャーを持ち上げる。持ちあげながら乳首の辺りに合わせるってのも案外面倒だな。とはいえこれを古泉にやらせるわけにもいかない。……よくよく考えてみると、別にいけない理由なんぞ無い気もするんだが、古泉にそれをやれと言ったら、半泣きどころか本気で泣きそうな気がする。
そんなことで泣く古泉ってのは、ちょっと見たくない。
男の涙は大事な時に取っておく物なんだよ。
「何センチだ?」
ぴったり合わさったのを感触で確認してから、古泉に問いかける。
背中が少しくすぐったい。
「83……、いえ、83と84の間くらいです」
「へえ……、じゃあ、Dの65ってところか」
さっき見た通販サイトのサイズを元に、計算してみる。
何だ、結構あるじゃん俺の胸。
アンダーの大きさ如何ってのはよく分らないが、Dってことはそれなりだよな。平均はBかCだっけか? よく知らないけど。
「んじゃ、服着るからそっちで待ってろ」
メジャーを外し、肘で突っ突くようにして古泉の身体を扉の向こうに押し返す。
……と、当たり所が悪かったのだろうか、どさっと崩れるような音がした。何が起こったなんて考えるまでもない。古泉がその場ですっ転んだ音だ。
おいおいおい、緊張しすぎとかにもほどがあるだろうが。
「おい、大丈夫か……」
振り返って、思う。
バカはどっちだろう。
背中に手を回し元男(一時的に女)のバストの計測を手伝わされて緊張しまくっている古泉と、そんな古泉の方に、服を着る前に振り返った俺と。
「え、あ……、す、すみません」
一瞬だけ目を見開いた古泉が、さっと目をそむけ、そのまま扉をばたりと閉じた。
おいおいおい……、いや、ここで平手打ち、とかしようと思うほど俺もバカじゃないけどさ。だって、今のは事故何だし。
でも、今日のお前、やっぱり少しおかしいだろ。
……相手は女の子でもなんでもない、俺なのにさ。
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