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Girl meets Girl 01



 女の筈の俺がどうして男言葉で且つ「俺」などという一人称を使っているかと言えば、それはまだ俺が小学校に上がる前に俺に面白がって男言葉を仕込んだ人物が居るからという単純な理由でも有ってそれ以上でもそれ以下でも無い。
 でもってその人物はと言えば近所に住む女子高生だったのだが、彼女は俺が小学校に上がる頃と前後して引っ越していってしまったので、下手をすると彼女の記憶には俺のような子供が居たことさえ残ってないのだろう。
 少なくとも、今でも男言葉とは思っていないだろうな。
 まあ、それ以降全然連絡は取ってないんで確証は無いんだが。
 家族はどうだったかって?
 妹が姉のことを「キョンちゃん」などという間抜け極まりないあだ名で呼ぶのを放置するような家族なんだ、押して知るべしって感じだな。
 そんなわけで俺は今になってもこの一人称と男っぽい言葉使いが全く抜けないわけだが、中学の真ん中辺りからは言い訳するのも段々面倒になり「気にするな」の一言で全てを済ませてきた。
 俺としては、喋り方程度で去っていく奴はどうでも良かったからな。
 さてそんな俺だが、高校生になる段階になって、高校になったら少しは変えてみようかとか思って居たりもした。
 何せ学校が変わるんだ。中学からの持ち上がりも居るには居るが、新しく知り合う奴だってそれなりに居る。
 変わるなら今、というと何かのキャッチコピーのようだが、本当にそう思っていたんだから仕方が無い。
 中学自体が真っ当じゃなかったとは言わないが、真っ当な青春って奴を送ってみたいとも思っていたからな。
 しかし、その俺の淡い目標は至極あっさりと崩されることになった。

 何せ、入学初日に涼宮ハルヒに出会っちまったからな。

 あいつの衝撃の前では俺の喋り方だとか一人称だとかいうのは些細過ぎる問題で、俺自身も綺麗さっぱりそんなことを忘れるはめになっちまった。
 まあ、そのハルヒのひとつ前の自己紹介の時点で既に失敗していたってのも理由の一つなんだけどさ。


 さて、同じ中学から持ち上がりの連中がそれなりに居る高校だったが、幸か不幸か俺と仲の良かった友人といえば何故かよくつるんでいた男友達の国木田くらいで、そこそこ仲の良い女友達は全員違うクラスだった。
 そんな俺が、たまたま席が後ろだった奴に話し掛けようと思ったとしても、そんなにおかしいことじゃないだろ?
 俺だって新しい友人は欲しいさ。
「なあ、しょっぱなの自己紹介のあれ、どこまで本気だったんだ?」
 口調を訂正するのをすっかり忘れていたが、言ってしまった後で考えても仕方が無い。
 腕組みして不機嫌全開だった涼宮ハルヒはほんの一瞬だけ不思議そうな顔をしたが、すぐに元通りの表情、いや、もっときつい目つきになって、俺の方を凝視してきた。
 睨んでいるようにしか見えないんだがな……。
「自己紹介のって、何のことよ」
「いや、だから宇宙人が……」
「どうせあんたは宇宙人じゃないんでしょ、だったら話し掛けないで」
 取り付く島もねえ。
 しかしなんだこの決め付け口調は。俺は確かに宇宙人でもなんでも無いただの女子高生だが、これじゃハルヒが俺の正体を知っているみたいじゃないか。
 いや、俺に正体なんて言えるほどのものは無い筈だが……。
 何だろうね、一体。
 俺は負け犬のような気持ちを抱きつつも、同時に奇妙な疑問を抱くことにもなってしまった。
 その後すぐに担任の岡部が入ってきたんで、そんなことは心の片隅どころか枠組みの外へ放り出されてしまったんだが。

 ちなみにハルヒの他の連中への対応も似たり寄ったりだった。
 俺のように宇宙人がどうなんて言うハルヒが言い出したことを取っ掛かりにするわけでもなく、ドラマがどうとか俳優がどうとか言う連中の末路がどうなったかなんて、語るまでも無いだろう。
 そんなこんなで、入学から一週間も経つ頃にはハルヒは完全にクラス内で孤立していた。

 そういう俺の方はと言えば、クラス内でそこそこなかの良い奴も出来ていたから、特に話し相手に不足する事も無く、ハルヒのことなんて段々忘れかけているくらいだった。
 後ろの席から妙な鬱オーラを感じるのは正直うざったいが、物理的に迷惑をかけられているわけじゃなかったからな。
 さてそんなとある日、俺は中学時代から仲の良かった国木田と、たまたま席の近かった東中出身の谷口という男子と弁当を食っていた。
 涼宮ハルヒの話題が出たのはそんなときだった。
「お前、この間涼宮に話し掛けてたよな」
「ん、ああ」
「どうせわけの分からんことを言われて追い返されたんだろ」
 その通りだ。
「悪い事は言わない、辞めとけ、あんな奴とつるんでいたらお前まで変人扱いされるぜ。
そんなことよりお前はお前で青春を謳歌するべきだ!」
 つるむ前に向こうからつき返されたんだが。……まあ、谷口の意見に同意出来ないわけでも無い。
 しかし何故お前は飯を食っている途中に立ち上がってそんな熱っぽく青春なんて単語を口に出来るんだ。国木田が俺とお前とを交互に見ているが、何か意味が有るのか、これは?
「考えておく」
 谷口の言う青春が具体的に何を意味するのかは俺には良く分からなかったが、とりあえず細かいことを気にしても仕方ない気がしたので、俺はツナサラダの攻略に戻らせてもらった。
「……まあ、とにかく、だ。あいつは常軌を逸している」
 谷口は三年間同じクラスだったからと前置きして、ハルヒが中学自体に起こした事件の幾つかをざっと話してくれた。
 校庭に石灰で絵文字のような落書きを書いたことだとか、机を教室から全部出してみたりだとか、学校中に変なお札を貼ってみたりだとか……、本当にわけが分からんな。
 落書き事件については地方新聞に載ったとかで国木田も知っていたが、俺は知らなかった。
「でもなあ……」
 谷口の話は終わらない。
 何でも、ハルヒは中学時代は男に良くもてていたそうだ。何せ顔はいいし、学業やスポーツも優秀な方らしいからな。
 一時期は本当にとっかえひっかえだったらしい。しかしあのハルヒだ、誰一人として長続きしなかったとのことだ。最長一週間はともかく最短5分ってのはちょっと常人の俺にはどんなお付き合いなのか全く想像できない。
 そういうこいつも、ハルヒに振られた一人なのかもな。
「聞いた話だって、マジで」
 ちょっとムキになりかけている辺りが怪しいが、俺はあえてそれ以上は訊かないでおいてやった。
「しかしお前、何で俺にこんな話をするんだ?」
「そりゃお前……」
 当然の俺の疑問の前に、谷口が口を閉ざす。でもって奴はそのままそっぽを向くように横を向いてしまった。
 何だ、一体。
 俺は何か悪い事を言ったんだろうか……、俺はただお前の語る在りし日のハルヒの姿とやらを延々聞かされていただけなんだが。
 首を捻る俺、無言の谷口、その両者を眺めて微妙な表情になる国木田。
 ……わけが分からん。
 俺は疑問を残しつつも、こんな状態に長く付き合っている気も無かったので、食べかけの弁当を手に椅子から立ち上がり、教室の入り口辺りの席に座って談笑中の女子グループの方へと向かうことにした。
「あら、どうしたの?」
 男子二人を置き去りにしてやってきた俺に対して、朝倉涼子が首を傾げる。
 朝倉とは特別仲がいいわけじゃないが、朝倉は誰に対してもそこそこ人当たりがいいので、俺みたいなやつがこうしていきなり押しかけてきても何も言わないし、同時に周りにも何も言わせなくさせるだけの雰囲気を持っていた。
 威圧感は無い、どっちかっていうとみんなの居心地を良くさせるタイプだ。
 所謂一つのカリスマ性って奴かも知れないな。
「どうもしないさ」
「ふうん、まあ、いいけど……。クラスメイト同士、仲良くしてあげなきゃだめだよ」
「分かっているって」
 あんな馬鹿と仲良くしてどうなるというのだろう。まあ、涼宮ハルヒと友人になれという無理難題を突きつけられるよりはよっぽどマシな気もするが……、俺は朝倉の忠告とも助言ともつかない言葉を心の片隅に置き、ついでに谷口と涼宮ハルヒのことも保留にして、隣にいた女子が振ってきた昨日のドラマの話に応じてやった。


 ハルヒの奇妙な片鱗についてはどう話したらいいのだろうか。
 毎日髪形が違うとか、体育の時間に男共を一切気にせず着替え始めるとか、全部の部活に仮入部しているだとか……、これだけやれば、そりゃ有名人にもなるよなあ。
 かくして五月が始まる頃には、涼宮ハルヒの名前を学内で知らない者はいないくらいの状態になっていた。



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