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ドーリィガール  第六章



 俺の声がリビングに響き渡ったその時、古泉はただぽかんとした様子で俺のことを見ているだけだった。ハルヒ仕込みのドッキリに綺麗に嵌ったとしてもこんな表情にはならないだろう。
 俺は周囲の空気が解けるのを待った。畳みかけるのは難しくないが、それじゃ意味が無い。恋ってのは一人でする物じゃない。相手の反応を引き出して、想いを通じ合わせて、それで初めて意味が有る。
「……正気、ですか」
 本気かどうかじゃなく、正気を疑われてしまった。
「ああ、俺はマジだぜ。でなきゃ、わざわざこんな恰好でここまで来たりしない」
 髪を下して、目一杯女の子らしい服を着て、ちょっとだけとはいえしたこともない化粧までして。仕草や態度が伴っているかどうかは疑問だが、これが俺に出来るギリギリだ。これ以上、なんて求められても何も出てきやしない。
「……」
「二度は言いたくない」
 でも、言わないってわけじゃない。一度で伝わらないなら何度だって言ってやる。好きだなんて言葉を自分が、それも男に対して口にする日が来るとは思わなかったが、一旦自覚してしまえば、その感情は割合素直に受け止めることが出来た。もやもやとした定まらないままだった感情、友情を求めるには行き過ぎた何か、ハルヒに先回りされても咎めようと思えなかったその理由。そして、どんなに酷いことをされても嫌えなかったこと――その答えは、とてもシンプルなものだったんだ。
「……信じられませんね」
「俺だって信じられないさ。でも、そうとしか思えない。俺は……お前が、好きなんだ」
 口にするのは少し緊張してしまうが、何とか声は震えずにすんだ。古泉が、日本の山中でアマゾンにしか生息していない生物に合った生物学者のような顔をしている。さっきから驚きっぱなしで、そろそろ許容量を超える頃合いなんじゃないか? まあ、そういう反応になるだろうとは思っていたけどさ。許容量と言えば、俺の方もかなりギリギリいっぱいの状態だ。自分が何を言っているかは分かっているし、どうしてその台詞を言っているかってことも把握しているが、未だにこの状況になっていることが信じられん。
「……本気なんですね」
「ああ、本気だ」
 嘘で言えるようなセリフじゃないぜ。
 古泉がふっと眼を瞑り、それから、ゆっくりと瞼を持ちあげた。
「正直、あなたがそのような結論に至るとは思いませんでした」
 そうだろうな。お前は、俺が戻りたいって言いだすことを望んでいたんだろう? こんな息苦しい状況下で、周りにはうるさい連中が色々居て、おまけに望みもしなかった逆ハーレム状態だ。傍目には幸福そうでも、この人数比は結構厳しい物が有ったんじゃないか。……なんてことに俺が気づいたのは、昨日辺りなんだが。だから古泉は、俺が男に戻りたいと言い出すように……いや、そこまで考えて無かったかも知れないが、行き詰った状態で俺に対して切れたのは確かだよな。で、その結果として、俺が男に戻りたいと言い出すと思った、って順番の方が正しいか。
「僕はあなたを傷つけたんですよ? それでも、好きだなんて言うんですか?」
「言うよ。俺はお前が好きだよ」
 だから、そんな泣きそうな顔はしないで欲しい。俺が好きって言ったら迷惑か? ああ、迷惑かも知れない。でも、言わなきゃダメだと思ったから、伝えなきゃいけないと思ったから、俺はこうしてここまで出向いて来たんだ。これが正しいとか間違っているとか、そんなことは関係ない。俺は古泉が好きなんだ。
「……」
「偽善でも無いし、強がっているわけでもない。そりゃあ、お前が俺にしたことを全面的に許しているわけじゃないが、そのことを批難するつもりもない。でも……」
「……何ですか?」
 続きを、言わないと。一番伝えたいことはたった一つの言葉に凝縮したつもりだけれど、その上に幾つかの言葉を載せたっていいはずだ。
「でも、それでも……お前が、俺に対して、ちょっとでも申し訳ないって思っているなら、俺に……もう一度、やり直すチャンスをもらえないか?」
 傷つけられて、距離が開いて、それで終わりなんて嫌だ。ぐっと拳を握り締めて勇気を振り絞る。ここに来るだけでも大変だった。自分の心をねじ伏せたつもりはないが、目を瞑った物は有るのかも知れない。それこそ世界の『常識』とやらに喧嘩を売っているようなものだろう。正しく無い姿で、本当かどうか分からない恋をして。そんな風に生きるつもりなんて全然無かったけど、でも、俺はここまでやって来てしまった。
 古泉に見捨てられでもしない限り、もう、戻る気はないんだ。
「……あなたも無謀な人ですね。もう一度、なんて言ってますけど、余計に傷つくだけの結果になるかも知れないじゃないですか」
 古泉がそっと俺の身体を抱きよせる。言葉とは裏腹に、その表情もその手も、とても優しいものだった。何だかんだ言いつつ、こいつは女を乱暴に扱ったりしない。紳士なのだ。この間の出来事は、まあ、事故みたいなものだろう。
「ここで終わるよりは良いさ」
 自分の与り知らない次元で遮断されてしまうよりは、自分で終わらせる場所を決めたい。そのために、俺はこの恋心に正直に生きてみると決めたのだ。傷つくかどうかなんて、今更も良いところだ。
 古泉の手がそっと俺の頬を挟み込み、口付けが落とされる。
 触れるだけのキスをして見つめ合う、なんて、まるで中学生のカップルのようだが、きっと俺達はそれ以下なんだろう。そもそも、正式に付き合うと決まったわけじゃない。好き、という言葉に釣り合うだけの行為を引き出すためには、まだまだ足りないものが多すぎる。
 睨めっこをしているかのような、まるで互いに笑いだすのを堪えるような時間が過ぎた後は、今度は濃厚なキスがやってくる番だった。すっと口付けられて、僅かな隙間から舌が差し出される。ちょっと、展開が早過ぎないか。……もっとも、俺の方からここへ来たんだ。そんな文句を言える筋合いでも無いな。おずおずと舌を絡め、唾液を交換し合う。貪られるだけのキスじゃない。互いの熱を伝えあうための行為。ざらりとした舌が口内を探っていくのが気持ちよくて、頭がぼうっとしてしまう。キスすること自体が気持ち良いというより、気持ち良いって思いたいってことかも。
「んっ……」
 唾液が糸を引いて、ぷつりと途中で切れる。あ、ワンピースにかかった。と思って胸元を見たら、古泉がそこへ手を伸ばしてきた。それこそ赤子に触れる母親のような手つきで、そっとその膨らみの形を確かめるように触れられた。指が服の上から柔らかな肉の中に埋もれていくだけで、背中がぞくりと震えた。
「感じやすいんですねえ」
「なっ……へ、変なこと言うんじゃない」
「別に変じゃないでしょう? 良いじゃないですか、悪いことではないんですし」
 そりゃあ、まあ、そうだけど。って、人が考えている時に手を動かすんじゃない。ぎゅっと胸を掴まれて、痛みでは無い何かが身体の中で高まっていく。服の上から硬くなり始めた突起を摘みあげられ、ピリッとした衝撃が走った。微弱な電流を流しこまれたらこんな感じになるんだろうか。
「綺麗な形ですよね」
 大きいとか小さいではなく、形に拘るのかよ。その気持ちは分からんでも無い、というか、確かに俺の胸はあんまり大きくない。どっちかって言うと小振りな方だと思う。着替えの時にクラス内をざっと見渡して、溜め息を吐きたくなったことだってあるさ。でもまあ、形は悪くないというか、全体のバランスは悪くないと思う。胸の形まで古泉好みに作られたかどうかは知らないが、気にいってくれたって言うのなら悪い気はしない。でも、耳元で囁かれるように言われるのはちょっと。
 古泉は暫しの間俺の胸に触れていたが、不意に手を離したかと思ったら、俺の背中に腕を回し、そのまま俺を抱き上げた。
「うわっ」
「ちゃんとつかまっていてくださいね」
突然のことと言うほどじゃ無かったものの、こんな風に持ち上げられたのはこれが始めてだ。何だかここ最近始めて尽くしだな。古泉は俺を軽々と持ち上げたままドアのところまで歩いていくと、器用にもその状態のまま扉を開いた。扉の向こう側は想像した通り寝室だった。リビングもそうだが、こっちの内装の方がよりシンプルだ。クローゼットを別にするとベッドとサイドテーブル、本棚くらいしかない。一人暮らしにしてはちょっと贅沢にも見えるセミダブルサイズのベッドの上にそっと身体を下された。古泉も俺の前に座り込んだ。
「あっ……んぅっ」
 ベッドの上で向かい合うような状態でやわやわと胸を揉まれ、鼻から声が抜けていく。熱っぽい声だなあ、と思っているのは俺自身だけじゃなく、きっと古泉も同じように思っているのだろう。頬を緩ませたその様子を見て、思わずくらりと来たね。整った顔立ちだとは思っていたが、少し表情が違うだけでここまで印象が違うとは。
 古泉の手が既に引っかかっているだけになった俺のカーディガンを落とし、ワンピースを脱がせていった。すっぽりと被るタイプだったので、これを人に脱がされるというのはどうにも間抜けな気がするんだが、仕方有るまい。可愛い服を選んできたつもりだが、脱がされることまでは想定しなかった。古泉の手付きに躊躇いも迷いもないって辺りが何とも言えないが、こいつの女性経験について言及しても仕方ないので、その点については黙っておこう。
 古泉の長い指先が、露わになった俺の上腕部を軽くなぞった。
「細いですよね」
「……女の子の腕なんだ、こんなもんだろ」
「必ずしもそうだとは限らないでしょう」
 そういう台詞を口にしてから笑うのは止めてくれ、何だか微妙な感じがする。それに、この状況で手の甲にキスを、なんて、幾らなんでも気障過ぎだろ。見ているだけで眩暈がしてきそうだ。
 だけどこの眩暈は、現実の光景を思考から退けるために生じたわけじゃない。夢のような、夢でさえも有り得なかったような光景が目の前に有るからだ。王子様みたいだ、とか思った自分の頭を殴りたくなったことも確かだが。後、王子様はキスをした後に指を舐めるなんてことはしないと思う。
「やめっ……」
「ふふ、手も弱いんですね」
「うっさい」
「かわいいですよ」
 古泉はちゅっと俺の指先に軽いキスを落とすと、そのまま俺の腕をぐっと引っ張った。大して力がこもっていたわけでは無いと思うが、不意をつかれた俺はあっさりと古泉の腕の中につかまってしまった。
「……うぅ」
「本当にかわいいなあ」
 耳たぶからうなじまでを軽く撫でられ、ぞわぞわとした形容しがたい感覚が腹の底から湧き上がってくる。腹、と言っても、食物の摂取と消化に関わる方の部分じゃない。女としての性を表す方だ。自分にそんなものが有るという違和感は、もう随分と薄れてしまっている。嫌悪に似た感情は最初から薄かったが、幾らなんでも慣らされすぎじゃないか。もっとも、もうこのままでもいいって思っているわけだが。
 長い指が首筋から胸元までするりと滑って行き、ブラジャーの中へと入って来た。そっとすくいあげられるようにされて、今度は直接乳首を摘ままれる。固い芯を持った部分を二本の指でぎゅっと挟まれて、背中が震えた。触られる場所とは違う場所が反応してしまうことには少しずつ慣れてきたつもりだけれど、身体はまだ完全に馴染んではいない。
「かわいい」
 何がどうかわいいのか一々解説されなかっただけマシなんだろうか。裏に回った手がブラジャーのホックを外し、俺は完全に上半身裸になった。両手で二つの塊の形を確かめるように持ち上げられたかと思ったら、顔を埋められた。
「なっ、おまっ……」
「柔らかいですねえ……良い感触だ」
 思うのは勝手だが、というか思うのは良いんだが、感想を口にするのはほどほどでお願いしたい。妙なことを言われるたびに顔が赤くなっていく。紅潮し続けるにしても限度が有ると思うんだが、その終わりさえ見えてこない。あーあ、もう、ゆでダコどころじゃないだろ。
「赤くなったところもかわいいですよ」
 い、言わなくて良いことを……。反論しようかと思ったその台詞は、胸元からやってきた衝撃によって浚われてしまった。不規則な手の動きに応じるかのように身体の各所が疼きを覚え始める。脚の方の感覚が薄れていくと、何だか自分がどこに居るか分からなくなったようで少し怖い。
「んっ……」
 胸元に吸いつかれて、今度はその視覚効果の前に撃沈しそうになる。その舌使いは、ちょっとエロ過ぎないか。女の子を楽しませる、感じさせるためにはどうしたら良いかってことを全部分かっているみたいだ。同い年なのに何でこう違うんだか。文句を言うようなところじゃないのは分かっているが、目の前の光景と違うところに思考を傾けておかないと、的確過ぎる刺激を前にして意識が完全に持って行かれそうになってしまう。胸元の熱さと下腹部の熱さ、全身に回った熱は身体の彼方此方を痺れさせている。
「ちょ、や……」
「嫌じゃないでしょう?」
 甘ったるい声で言われて、今度は耳のあたりが震えた。うう……反論出来ない自分が悔しくて、だけど何も出来ないのは嫌で、俺は手を伸ばした。どこって、そりゃあ男が一番感じる場所に決まってる。
「あ、あの……」
「じっとしてろ」
 服の上から触れてみたその部分は、既に充分固くなっていた。こっちは何もして無いのに、こいつは……まあ、男ってそういう生き物だよな。俺も元々男だし、状況が状況なので別に文句は無いが、何だか笑い出したくなってしまった。小さく漏れてしまった笑い声は、どんな響きで届いたんだろうか。
 ズボンのファスナーを下ろして、中に有る物を取りだす。他人の性器に直接手で触れるなんて始めてなわけだが、さほど抵抗は無かった。固いそれの先端に指を這わせ、指の腹で尿道に触れてみる。ぬるつく液体が指についたので、ちょっと舐めてみた。う、結構苦いかも。
「な、何しているんですか」
 何って言われても、この体勢を見れば一目瞭然だろう。ファスナーを下される時でさえ無言だったのに、今更慌てられても。お前だって嫌じゃないんだろう? というのを視線だけで伝えると(アイコンタクトに成功したかどうかは分からないが)、俺はその先端に口付けた。やっぱりちょっと苦い。でも、耐えられないほどじゃない。
「ん……っぐ、むぅ……」
 口に含むと、苦さや感触よりも顎と舌が痛くなりそうなのが気になるところだったが、まあ仕方が無い。自分でやり始めたことだ。出来るところまではやるしかないだろう。含めそうなところまで口に入れて、固くなった幹に舌を這わせてみた。舌先でまだ少したるみのある皮を広げるようにして、時々歯で軽く触れる。噛んだら痛いだろうが、触れるくらいなら良い刺激になるんじゃないか。
「あ……気持ち良い、ですよ」
 そりゃ良かった。しかし俺は返事を口に出来ないので、その代りにもう少し奥まで含んだだけだ。さすがに喉が痛い……無理はしない方が良いかな。今度は浅く咥える程度まで唇を引いて、先端部分を舐めまわした。時々歯で甘噛みのような刺激を与えて、顔を見上げて見る。締まりの無い、けれど幸福そうな顔が見えて、俺は嬉しかった。今はこっちがされる方じゃなくしている方だってのに、俺の方の熱が下がるような気配も無い。
「もう良いですよ……顎や舌が辛いでしょう」
 その体勢のままもう一度咥えこもうとしたら、ゆっくりと引き剥がされた。
「別に平気だぞ。お前がそうしたいって言うのなら、飲んでやっても良いし」
「……っ」
 何故そこで黙る。古泉ははあっと少し長い溜息を吐くと、俺の身体をぎゅっと抱きしめた。な、なんだよ。
「何でも有りませんよ……あなたは、本当にかわいい人ですよね」
「……容姿のことだけだろ」
「そうじゃありませんよ。容姿は当然として、あなたはそれ以外の部分も大変かわいらしいんですよ。僕が保証します」
 根拠も無しに保証されても、と思ったが、腕を緩められたことで視界に入ったその顔が妙に真面目だったので、反論するのはやめておいた。性的な快楽とは違う理由で、胸が少し熱くなる。
「続き……良いですか?」
 俺はそっと首を縦に振った。
 ベッドの上に寝かされ、今度は下に穿いていた物も取られた。これで俺は完全に素っ裸だ。裸だからといって羞恥を感じるような場面でも無いと思うんだが、何だか目を逸らしたくなった。赤い秘肉に指先が触れる感覚が有って、俺は目をぎゅっと瞑った。
「もうぐちょぐちょですね」
「い、いちいち言うなっ」
「良いじゃないですか、本当のことなんですから」
 本当のことだからって、言って良いことと悪いことが有るだろう。別に、悪いって決めつけるようなことじゃないかも知れないが……って、人が考えている時に刺激するんじゃないっ。
 肉に埋もれるような個所に有った突起に軽く爪を立てられて、俺は思わず首を振った。与えられる快楽の強さに身体がついていかない。どうにかしてこの熱を身体から追い出してしまいたいのに、自分の意思じゃどうにもならない。
「あっ……」
「落ち着いて。怖いことじゃありませんよ」
 恐怖を感じた日のことを完全に忘れることは出来ない。でも、あの時と今とじゃ状況が全然違う。あの時の古泉は怒っていたけれど、今はとても優しい。優しさに完全に縋るようなことは出来なくても、その優しさに今という時間を委ねることは出来る。
「ふぁ…ん、うぅ………」
 空気が足りなくて息を吸おうとするけれど、肺に上手く届いている気がしない。強すぎる快楽は呼吸を妨げるんだろうか。口をパクパクとさせていたら、唇が降りてきた。これじゃキスというより人工呼吸みたいだ。呼吸を助けるようなキスはほんの数秒で、古泉はすぐに顔を離していった。なんだか呆気ない気がしたが、少し息をするのが楽になった。
「う、ん…ひゃっ……あ、ぁ…」
「大丈夫ですよ……ちゃんと、気持ち良くなれますから」
 今だって充分気持ち良い。だけど、もっと先が有る。
 埋められた指が内壁を引っ掻くように動いている。不規則な動きに身体も頭もついていけなくて、俺はただ首を振ることしか出来なかった。
「……痛くないですよね?」
 動きが止まったかと思ったら、至近距離で聞かれた。大丈夫、と短く答えると、頭を軽く撫でられた。指が抜かれ、もっと太くて硬い物が入り口に添えられる。微かな恐怖を感じるけれども、俺はそれが身体の表面に出ないように抑え込んだ。もしかしたら古泉も俺が恐怖を感じていることに気づいていたのかも知れない。でも、ここまで来て止まることなんて出来ないだろう。男ってのはそういうもんだ。
俺だって、好きな人と繋がりたい。
 古泉が息を呑む音が聞こえた気がした。それと同時に、固いものが中へと入ってくる。最初の時とは違い、痛みはほぼ無かった。始めてでは無いし、身体が受け入れるための準備を済ませた後だからだろう。
「全部、入りましたよ」
「あ……」
 言わなくて良いから、と言い返したいところだったが、俺はただ短い息を漏らすことしか出来なかった。俺の中に、古泉が……古泉が、居るんだ。無理矢理でも一方的な搾取でも無い。古泉が俺のことをどう思っているかってことについてはまだ疑問が残っているが、これは合意の上でのセックスだ。互いが互いを必要だと思って、肌を重ね有っている。
「動かしますからね」
 首を縦に振って、続いてやってくる衝撃に耐える。
 内部からの痛みは無かったが、足を持ち上げられている体勢なので若干脚の付け根が痛い。宙ぶらりんになった足先は既に感覚が薄れているので何だか半端な感じがする。足、動かせることは動かせるけど……挿入と共に快楽が送り込まれているせいだろうか、どうも俺は大胆になっているらしい。俺はその脚を動かし、古泉の腰に絡めた。
「えっ」
「つ、つづけて……」
 このまま、最後まで。
 求めている自分を晒していることに対する羞恥なんて、快楽の波の中じゃすぐに吹き飛ばされる。
与えられる快楽に身を委ねるようにして、俺は完全に意識を飛ばしていた。
 
 

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