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キョンちゃんと一樹くん 03


 はあ、何やっているんだろうね俺は。
 いくら居心地が悪いからって、あんな風に部屋を出なくたって良いじゃないか。必要なものを買ってきてくれたんだ、一応礼くらい言うべきだろうに……、と思ってはみるのだが、頭の隅っこでは古泉の画像ぐるぐるがまだ続いているので、そういうわけにもいかない。
 うるさい邪魔だとっとといなくなれ。
 いや、声まで再生されているわけじゃないけどさ。
 何だって古泉なんだよ……。別に古泉がどうだろうと、そんなこと今の俺には何の関係もないじゃないか。
 俺が女になったのだって単なるハルヒの思いつきで有って、そこに古泉の存在は関係ないだろうに。
「全く……」
 バカバカしいにもほどがあるなと思いながら、メジャーを伸ばす。
 どこを測るんだっけかな。身長は……、まあ、面倒だし測る必要もないから飛ばすか。多分160ちょいってところだろう。平均か平均よりやや高めだな。ぱっと身体を見渡した感じだと、服のサイズに影響するほど手や足が長かったり短かったりってことは無さそうだ。
 で、測るところと言えば……、あー、あれか、スリーサイズか。
 男の幻想その一ってやつかね。
 大抵の男はグラビアアイドルや三次元のキャラクターのサイズに騙されているとかなんとか。かくいう俺も詳しいことを知っているわけじゃないんだが、今の俺は女だから、この細身の身体のサイズを自分で知ることができるって寸法だ。
 若干後ろめたい気がしないわけでもないが、自分の身体だし、どうせ期間限定の代物だ。ちょっと測るくらい良いじゃないか。測らないと服も選びづらいし。
 しかし、測ると言ってもどこから……、あー、胸は最後にしておくか。最後のお楽しみってわけでもないが、ダメージを受けるにしても喜ぶにしても最後の方が良い。
 先ずはヒップからだ。次にウエスト。
 測ったことが有るわけじゃないが、測り方はサイトで見た通りにすれば良いだけのことだから、そんなに大変なものでもない。
 サイズは……、まあ、こんなものかね。
 そのものずばりの数字は伏せさせてもらうが、ヒップが80代真ん中くらい。ウエストが60弱だった。一見ハルヒより細く見える体型でこれってことは、世の女性たちは一体どれだけサバを読んでいるのやら、だな。
 朝比奈さんとか意外と……、いやいやすみません朝比奈さん。あなたはトータルで素晴らしい体型の持ち主です。あの素晴らしいお尊顔と胸を考えれば、寧ろあのくらいの方がバランスが良い……、ってことだと思う。いや、これはお世辞とか抜きで。
 実際こんなひょろひょろ目前の今の俺みたいのよりは、朝比奈さんみたいな体型の方が男受けはいいだろうしな。痩せている方が良いってのは女の幻想か女同士のプライドの問題なんだよなあ。悪いが俺だったら今の俺の体型に大して魅力を感じないぞ。朝比奈さんの方が絶対いい。
 さて……、最後、なのだろうか。
 残ったのは最難関、バストだ。
 これを測るのはどうしても躊躇われるし、一人で測るというのはちょっと無理があるんじゃないかって気がする。
 かといって人の手を借りるのは……、男の手は借りたくないし、かといって女なら良いってものでもない。そして、ここで借りることができる手は一人だけだ。
 どうする、俺?
 胸のサイズは無視してサイズ違いで同じ服を買って(どうせ俺の財布は痛まない)、明日あたり事情も知らないどっかの下着の店の店員さんに……、いやいやだめだろう、いくらなんでも女子高生がブラもしないで行ったら変な人だ。
 ああしかし、アンダーはともかく、トップは一人で測れるようなものじゃあ……。
「あの」
 何で、このタイミングで扉の向うから声が聞こえてくるんだよ! 
 当たり前だが借りられる手が一人なら、聞こえてくる声もその一人しか有り得ない。
 遠慮がちな古泉の声は本気で俺のことを心配しているような響きでもあったが、なんだかそれが無性に腹が立った。
 お前が俺にそんな態度をとるんじゃない。
「何だよ」
「いえ、あの……」
「早く言え、用件はとっとと済ませろ」
「あ、はい……。いえ、サイズ、一人で測れているのかな、と思いまして」
 古泉は遠慮がちな声を維持したままでは有ったが、俺の言ってほしくないことを言い切りやがった。


 
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