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キョンちゃんと一樹くん 09


 何をするというわけでもないが何もしないというのも少々気まずいような気がしないでもない微妙な状況。古泉がラックの中に有った割と最近ヒットした映画のDVDを「見ますか?」と言ってきたので、俺達は二人でDVD鑑賞をすることになった。断る理由も無かったからな。
 その映画は、古泉は何度か見たことが有るものみたいだが(持ち主だから当たり前か)、俺は見たことのないものだった。
 映画についてというか、俳優やら小道具やらについての豆知識を時折披露している古泉はちょっと得意げで、そういう時の横顔は普段の苛立ちを誘う笑い方に似ていると思うのに、なぜだか今日はそんな古泉を見てもとく気ににならなかった。寧ろ、良いな、とか……、いやいやいやそれは無し。
 古泉の顔の造詣が整っているのも笑顔が妙に様になるのも確かだが、俺がそれに対して好意的な反応を抱くってのは何か間違っているだろう。俺はそういう立場じゃないし、多分古泉だってそういう関係を望んでいるわけじゃない。
 ただ、まあ。
 こういう風に展開のネタばれにならない程度の解説役と共に部屋の中で映画を見るってのは、そんなに悪いもんじゃない。こいつ、こういう風に程度を弁えて喋るってことも出来るんだな、なんてことを思ったりもするんだが。何時もは喋り過ぎなんだよなあ……、こっちが聞きたくないようなことまで言わなくても良いだろうに。
 俺の耳に都合の良いことばかり言っている古泉なんて、らしくないって気もするけどさ。
「面白かったですか?」
 きっちりエンドロールまで見終えてから、古泉が訊ねてきた。
「それなりに」
 面白くないとは言わないが感動するほどの名作ってもんでもない。ヒット作なんてこんなものだろう……、という感じの感想をひっくるめた上で正直にその一言を伝えた俺の前で、古泉がちょっと眉根を寄せる。
「そうでしたか……」
「別に気にしなくて良いよ。良い暇つぶしにはなったし」
 どうせ明日になるまで外には出られないんだ。時間潰しとして映画鑑賞ってのはそう悪いもんじゃない。期間限定女の子モードで出来ることに邁進するのも悪くないが、そう焦らなくても良いだろう。一週間ってのはそれなりに長い。
「もう夕方か」
 ふと視線を注いでみた窓の外は、すっかり茜色に染まっていた。結構長い映画だったからな。普通だったら夕食の時間だが、まだお腹が空いているって感じでもない。半端な時間に昼飯を食ったからだろうな。
「なあ、古泉、お前は腹減っているか?」
「いえ、あまり……、お昼が遅かったからでしょうね」
「俺もだよ」
 さて、どうするか……。
「何だったら、もう一本映画を見ませんか?」
「別にかまわないぞ。ただ、次はもう少し短いのにしてくれ」
 腹が減るまでってことを考えると、二時間以内が良い。あんまり遅くなると出前の選択肢も減からな。
「了解しました」
 頷いた古泉が妙に楽しそうな様子で持って来たのは、タイトルさえ聞いたこともないようなマイナーなサスペンス映画だった。
 ……お前、こういうところ結構極端だよな。
 
 
 
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