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キョンちゃんと一樹くん 10


 その、マイナーなサスペンス映画が面白かったかどうかと聞かれても回答に困るところだが、得意分野について語り始めた古泉がうざくてしかたなかったとだけ言っておこう。どうしてこいつは加減って物を知らないのかね。
 映画の後は夕飯。当たり前だがやっぱり出前だ。
「お前が選べ」
 ノートパソコンを渡そうとしてきた古泉にそう言ってやったら、古泉はぱちくりと大きく瞬きをした。
「僕が、ですか?」
「ああ、昼間は俺が選んだからな。今度はお前が選べ」
「僕は何でも良いですよ」
「何でも、とか言うな」
「そう言われましても……。あなたの食べたい物を優先してください」
 困った顔に笑顔をブレンドした苦さも甘みも温度も中途半端な生温い缶コーヒーのような表情で古泉は言った。気を遣ってくれているっていうのは分かるんだが、ほどほどにしてほしい。俺は別にお前に甘やかされたいわけじゃないぞ。第一家主も財布を握っているのもお前じゃないか。もうちょっと毅然とした態度でいろよな、今日のお前はどっか腑抜け過ぎだ。
「良いからお前が選べ」
「はあ……」
 納得しきれない表情では有ったが、古泉は自分で頼む物を探し始めた。一体何にするかなと思ったが古泉が選んだのは無難なファミレスの出前だった。適当な定食物を選んだ古泉は、あなたもお好きな物をどうぞ、と言ってパソコンを俺に渡して来た。
 お前なあ……、まあ、良いけどさ。
 俺は俺でハンバーグ弁当を選び、注文を済ませる。
「昼も夜も出前ってのも変な感じだよな」
「そうですか?」
「普通はそうだろ」
「……ああ、そうかも知れませんね」
 何だその答え方は。
 ああもう、前から分かっていたことだが、お前は文句の付けどころ満載過ぎなんだよ。毎日毎日外食と出前と冷凍食品を繰り返すような生活なんだろうってことくらい想像の範囲内だけどさ、それを当たり前と思うところまで行くんじゃない。お前は食生活から考え直せ、時間が無いってのは言い訳にしかならん。時間なんてのは作るもんだ。
「外食とか出前ばっかってのは口に合わないんだよ。……明日以降は自炊の方針で行くからな」
「了解しました」
 俺の言いたいことが分かっているのか居ないのか、古泉は何時もながらの爽やかスマイルで俺の言葉に頷いた。
 ああ、先が思いやられるね。
 この場合の先っていうのは、これから先一週間のことよりも、もっと先のことのような気もするんだけどさ。
 
 
 
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