springsnow

キョンちゃんと一樹くん 11


 ファミレスからの出前が届いて飯を食った後は、特にすることもない。
 寝るにはまだちょっと早い時刻だが、映画を二本も見ていた関係上、テレビでも見て暇つぶしって気分でも無いからな。
「寝るか」
 どうせ外に出られるのは明日になってからだ。だったらとっとと寝て体力の充実を図った方が良い。特に何をするってほどのことは無いと思うんだが人間身体が資本だし、何より普段の身体とは違う身体だ、気を遣っておくに越したことは無いだろう。
「ああ、もうですか」
「することが無いからな。……んー、シャワー浴びてくる。着替えは適当に何か貸してくれ」
 風呂に、とも思ったが今から湧かして入るのも面倒だ。
「あ、はい」
 さっさと風呂場へと向かう俺の背中に古泉の声がかかる。若干上ずったように聞こえるのは気のせいだよな? 別に気にすることなんて何も無いだろうに。
 俺は古泉をその場に残し、浴室でシャワーを浴びることにした


 借りていたYシャツを脱ぎトランクスも脱ぐと、当たり前だがその時点で俺は素っ裸状態になる。ちなみにこのトランクスは自前の物だ。さすがに下着は借りる気になれなかったし、用意されれた女物のレースがひらひらした代物を穿こうとも思えなかったからな。
 浴室の中にある割と大きめの鏡に自分の身体が映っている。
 結構いい加減な格好をしていたし何度か胸を触ってみたりもしたが、こうして眼ではっきりと捉えてみるとまた少し違った気分になりそうだ。女の身体なんだなあ、という実感というかなんというか……、それこそ、目を閉じて言葉も出さずにいれば違いなんて感じることもないわけだから、視覚的な効果というのはそれだけデカイものなのだろう。
「ふうん……」
 精神状態まで女の物に置き換わっているとは思えないのだが、流石に自分の身体を見て欲情するような仕組みにはなって無いらしい。……何となくご都合主義な気がするが、どうせハルヒが原因である以上そんなところを追及しても仕方無いな。俺がこうなっている時点ですでに摩訶不思議領域突入も良いところだ。
 まあ、不思議だろうと何だろうとこれが現実なんだけどな。
 俺はとりあえず様々な疑問を頭の隅に寄せ、シャワーを浴びることにした。原因究明とかは後で良い。別に究明しなくても戻れるらしいし。
 熱いシャワーを頭から浴びて、髪を洗う。
 風呂場に有ったシャンプーは俺の知らない銘柄ので、なんだか高級そうな物だってことだけが理解出来た。男の癖に、と思ったが、古泉らしい気もした。まさか男性用化粧品まで用意しているんじゃないだろうか。いや流石にそれは無いか。多少の身嗜みはともかくとして、そこまで行くと多分ハルヒに引かれるだろうし。
 その高級そうなシャンプーを惜しげもなく手にとり、髪を洗う。別に洗っている感触は家に有る一本数百円のものと大差ない。そういや髪、男の時よりちょっとだけ長い気がするな。ベリーショートからショートに昇格って感じだ。いや、もともとベリショというほど短くもないが、これは言葉の綾ってやつだ。深い意味は無い。
 女子としては短いよなあ。女の子になったなら、いっそロングヘアに……、いやいやいや、わざわざそんなことを妄想してどうする。長い髪、ねえ。思うところが無いわけじゃないが、それを自分のものにしたいわけでもない。
 ……それとこれとは別、ってことにしておいてくれ。
 
 
 
NEXT


Copyright (C) 2008 Yui Nanahara , All rights reserved.