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キョンちゃんと一樹くん 12


 シャワーを浴び終わり古泉が用意してくれたTシャツに手を通す。着ているのを見たわけじゃ無いが元々古泉の部屋着か寝巻き用のものだろう。元々古泉とは身長が違うし今の俺はさらに小型化されていて差が広がっているわけだがパジャマ代わりと考えれば多少大きいくらいでちょうど良い。
 Tシャツから香ってくるのは洗剤か柔軟剤の匂いだろうか。
 古泉の部屋の中はお世辞にも奇麗な方とは言えなかったが洗濯はしっかりして有るようだ。まあ、掃除はしなくても生きていけるが洗濯に関してはそうもいかないからな。世の中には一度着た服には二度と袖を通さない洗濯機要らずの生活をしているセレブもとい変人もいるようだがいかにおかしな肩書き持ちとはいえ古泉もそこまででの変人ってわけでは無いらしい。
 廊下を辿りリビングに向けてひょいと顔を出してみたら何故か古泉はパソコンの画面を見ているところのようだった。背中が広いからか何をしているかは分からない。
 俺はちょっと考えてから忍び足で近寄り、
「おい、古泉」
 耳元で奴の名を呼んでやることにした。
「うあっ……、は、早いですね」
 古泉がさっと振り返りそれと同時にノートパソコンの蓋を閉めた。慌てているように見える割には動作が素早いな。見られちゃ困るようなものだったんだろうか。
「普通こんなもんだろ、シャワーだけだし」
「あ、ああ……そう、ですね」
 古泉がどうにかして笑顔を取り繕っているようだったがこっちにはバレバレだ。慌てていたのを隠したい気持ちは分からないでもないがそれじゃ逆効果だぞ。
「お前も浴びて来い」
「は、はい」
 古泉がさっと立ちあがり一度自室に引っ込んだ後着替えを手に風呂場へと向かっていった。
 当然のようにパソコンはそのままだ。蓋を閉めただけ、ということは多分画面はそのままなんだろう。古泉は一体何を見ていたんだろうか。俺に隠したくなるようなもの……、一体何だろうな。まさか機関絡みか? いや、それは無いな。そういう雰囲気じゃなかったし。
 もっと個人的な何か……、ふむ、気になると言えば気になるな。
 隠そうとした物を見るというのも趣味が悪いが見られる危険を冒して見ていた古泉も悪い。
 俺は簡潔な結論を導き出し、ノートパソコンの蓋を持ち上げた。てっきりスリープモードに入っているかと思われたがどうやら閉じただけでスリープするような機能が有るような物では無かったらしく、画面の電源は入りっぱなしだった。
「……何だ、これ」
 そこにある物は非常に分かりやすくかつ見間違えるようなものでは無く、ついでに言うなら俺が本日見たものと似たようなものだったのだが、俺には古泉がそれを見ている理由が全く分からなかった。
 女物の服の、通販サイト。
 俺が見ていたのとは大分傾向が違う、どっちかって言うとひらひらふりふりで女の子らしさ満載の、女の子が思い描く物に男の願望を投じたような服の数々だった。
 ……あいつ、女装願望でも有るのか? あるいは、女の子になりたいとか。いや、それとも、俺に着せたいとか。……まさか、それは有り得ないか。
 俺の容姿は、まあ、男の時ほど平々凡々って感じじゃないがそれにしたってすごくかわいいとか言うほどじゃない。普段ハルヒや朝比奈さんレベルの容姿を当たり前のように見ている古泉が、今の俺の外見に対してあれこれ思うところが有る、なんてことは有り得ないだろう。
 そう、だからこれは別の理由が有るはずだ。
 何か別の……、なんだろうな。
 俺はそうやって少しの間首を捻っていたが古泉の趣味趣向について事細かな知識が有るわけでもないので途中でその思考を放りだしノートパソコンのふたを閉じた。画面を見たものの蓋の閉会以上の操作はしていないから、俺がこっそり見てしまったことが古泉にばれたりはしまい。
 多少の罪悪感は有るが謝るというのも何だか癪だし、どうしてこんなものを見ていたんだと聴く気にもなれないからな。いや、聴くのがこのもやっとした思考を晴らしてくれる一番手っ取り早い方法だということは分かっているんだが。……どうしてだろうな、俺はそういう気分にはならなかったのだ。
 
 

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